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おまけ召喚 第四部 紅の女王の帰還  作者: 草野 瀬津璃
第十五幕 紅の女王の帰還
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八十二章 凱旋パーティー 5



 宿に戻ると、皆で下賜品(かしひん)を分け合うことにした。

 金貨六十枚に、衣類が六着だ。

「どうやら一人ずつ分けられるように考えてくださったようじゃな」

 中身を数えて、アルモニカが言った。

 六人いるので、金貨を十枚ずつ、衣類を一着ずつ選ぶことにした。

「切り詰めれば、銀貨三枚で一ヶ月暮らせるんだよね? 銀貨三十六枚で一年でしょ。十年は暮らせるってこと? そんな大金、怖い……」

「喜ぶよりもビビるところがルイって感じだな」

 後ずさる流衣に、リドが感心したように言った。

「これで良い武器を買おう。長旅で靴が傷んできてたから、新しく買えるのは助かるぜ。残りはウィングクロスの銀行に預けておけば安心だな」

「そうだね」

 銀行の存在を思い出した流衣は、持ち歩かずに済むとほっとした。

 服のほうは、あまり厳密にサイズを気にしなくていい、膝丈のマントだ。体格別にそろえてあった。

「この一番大きい灰色のものは、私が頂くぞ」

 セトが灰色のマントを取り上げて言った。質が良いとうれしそうに目を細める。

「セトさんは灰色のセトって言うくらいだから、灰色が好きなんですか?」

 流衣がセトに問うと、セトは首を傾げた。

「私が灰色のセトと呼ばれているのは、この容姿のせいだ。灰色の髪と、ダークグレイの目だろう? ヘイゼル様が、〈塔〉や学会で会うと、『灰色の』と声をかけてくるうちに定着してしまった」

「なんだ、ヘイゼルじいさんのせいか」

 アルモニカは師匠の黒ウサギを思い浮かべたのか、しかめ面で言った。

「ヘイゼル様にそんなふうに呼ばれるのがうれしくてな、なんとなく合わせて灰色の服を着るようになった。まあ、灰色といえば庶民の服だな。洗いすぎて色が落ちて、灰色になる。私のような庶民派にはちょうどいいさ」

「え、それだと馬鹿にされてることにならないか? 色あせ呼ばわりじゃないか」

 リドが口を挟むが、セトは気にしていないようだ。

「名誉貴族を得た時に、君の言うように馬鹿にする者もいたが、どうでもいい。ヘイゼル様が付けてくださった、誇りある呼び名だ。私が分かっていればそれでいいのだよ。今では尊敬を込めて呼ばれている。私の勝ちだな」

「セトさん、かっこいい……!」

 流衣が拍手すると、セトは少し照れ笑いを浮かべる。眼鏡のブリッジを指先で持ち上げ、マントを示す。

「私のことはいいから、君達も選びなさい。体格的に、これが君のかな?」

 青いマントを取り上げて、セトは流衣の肩にあてがった。流衣が試着してみると、しっくり治まる。

「本当だ、ぴったり」

 他の面々も、それぞれマントを試着する。

 ディルは白、リドは深緑、アルモニカは黄緑、サーシャはサンゴ色の柔らかい色だ。似合う色のものを選んでくれたようだ。

「リストによりますと、それぞれ魔法効果の付与がされていますわね。セト様とリド様は風属性強化、わたくしとディル様は光属性強化、ルイ様は地属性強化、アルモニカお嬢様は火属性強化ですわ」

「城に行く前に、どの属性と相性が良いかを訊かれたのでな、私が教えておいた。これで問題なかっただろう?」

 セトに確認され、皆、いっせいに頷く。

「この羽竜(ウィングドラゴン)のマントも気に入ってたけど、だいぶボロボロだもんなあ。寂しいけど、お別れしなきゃ」

 旅を始めたばかりの頃、古着屋で買った羽竜の羽で織られた青灰色のマントを眺め、流衣は感傷にひたる。リドもマントに触れて、難しい顔をする。

「染めなおしても微妙だろうな」

「ルイ様、不要でしたら捨てずにわたくしに譲ってくださいませ」

 サーシャが前のめりに頼むので、流衣は目を丸くする。

「でも、こんなのを他人にあげるなんて……」

「見える部分には使えませんが、羽竜ならば服の裏打ちにしても温かいんですよ。旅には不向きでも、神殿の子ども達――亜人(あじん)の子が寒がりなので作ってあげようかと」

 それは良い活用法だ。

「そんなふうに使ってくれるなら、マントも喜びます。あげます!」

「ありがとうございます!」

 サーシャはうれしそうにマントを抱きしめる。流衣は慌てた。

「あの、洗ってからあげます。汚れてるので」

「失礼しました。つい、うれしくて」

 そんなサーシャを微笑ましそうに見て、アルモニカは流衣に声をかける。

「ルイ、洗濯が終わったらワシに寄越せ。サーシャ、召喚魔法で実家の箪笥に送っておくから、戻ったらまた言ってくれ」

「分かりました。よろしくお願いします、お嬢様」

 こうして話がまとまると、流衣はまた金貨のことが気になってきた。こんなにたくさんもらっていいのかと、気が引けるのだ。

「うーん、このお金、別にいらなかったんだけどな。お城の人も、これから大変なのに」

 苦笑する流衣に、アルモニカがけげんそうに口を挟む。

「何を言っているのだ。成果には、それ相応の報酬を。でなければ、王がケチだと悪評がつくぞ。それに、こういう時のための下賜品だ。褒美に爵位や土地を与えるほうが高くつく」

 アルモニカの言うことに、ディルが頷く。

「その通りだぞ、ルイ。こういった品は技巧と手間がかかるから、自然と高価になる。伝統的な技法を残すにしたって、職人は食べていかないといけないからな。王家や貴族は下賜用の品を作らせることで職人を保護して、ついでに土地を減らさずに、配下の評価もできるというわけだ。一石三鳥だな」

 流衣だけでなく、リドやセト、サーシャも感嘆の声を上げる。

「おお~、そんな意味があるなんて」

「すげえな。貴族って無駄に散財してるわけじゃねえのか」

「わたくしもびっくりです」

 するとディルは真面目な顔で続ける。

「散財するだけの者もいるがな。パーティーを開くことも、金の無駄遣いだとぼやく者はいるが、財政赤字の時でなければ、悪いことではないのだぞ。衣装や宝飾品、料理の材料なんかを買うから、あちこちで金が動く。ただ金が動くだけでは駄目なんだ、物と人が動くようでないとな」

 お金があちこちに流れていく様子について、ディルは丁寧に教えてくれた。貴族から、それぞれの職人、食べ物を扱う商人、食器などのテーブルウェアから、明かり用の魔法道具まで、さまざまなところにお金が流れていく。そこからまた雇っている人に流れ、彼らが市場でお金を使うことで、また巡っていく。

「川みたいなものだ。上が節約なんてすると、困るのは下のほうだな。だが、領地が苦しいのに豪遊していたら、そいつはただの馬鹿だぞ。時と場合による」

「庶民には思いもつかない考え方だなあ。ディル、三男なのに領地運営についても詳しいんだね」

 流衣が褒めても、ディルは至極当然のことだと不思議そうに返す。

「私は七つの時には、カイゼル男爵家に婿入りすることが決まっていたからな。家督を継ぐための勉強は義務だ。今は騎士修業の身だがな」

「そういえばイザベラさんにはちゃんと手紙を送ったの?」

「アカデミアタウンのウィングクロス宛てに、手紙を転送してもらったが……。あの方がこちらに来るには時間がかかりすぎる。会えるか分からんな」

「なんで?」

 会えばいいのに。流衣が首を傾げると、ディルは眉を寄せる。

「君はこの後、カザニフに向かうのだろう?」

「うん。そうだけど、オルクスとセトさんがいるから、一度アカデミアタウンに転移魔法で顔を出しても構わないよ? でないと僕達、イザベラさんに一生恨まれるんじゃないかなあ」

 流衣がごく自然に提案すると、皆もそれがいいと声をそろえた。

「お前、処刑されるかもしれなかったんだぞ。あの人、絶対に毎日泣いてたと思うぜ」

「顔を見せて安心させてあげるべきじゃ」

「そうですよ、乙女心を分かってなさすぎです」

「君は真面目すぎて、融通がきかないのが短所だな。もう少し気遣ってあげないと」

 リド、アルモニカ、サーシャ、セトがそろって駄目出しをして、最後にオルクスが流衣の肩からとどめを刺す。

「わて、こういうのをなんて呼ぶか知ってますヨ。『甲斐性なし』です」

「ぐはっ」

 ディルは胸を押さえ、床に崩れ落ちた。

「というか、私は転移魔法のことを忘れていただけで! 甲斐性なしなどと!」

 少しして立ち直ったディルが抗議したが、流衣達はすでに他のことを話し合っている。

「ねえねえ、あっちに行くなら、ナゼル君と校長先生にお土産を買って行きたいな」

「校長になんかいらないだろう。シレーネさんとナゼルにか、なるほど、それはいいな。何が喜ぶだろうか」

 流衣にセトが返し、リドは用事があると告げる。

「出立前に、武器屋と靴屋に行きたい。やっぱり良い店は王都に多いからな」

「わたくしもお買い物をしたいです」

「ワシも! 王都を歩いてみたいぞ!」

 サーシャの希望に、アルモニカはぴょんぴょんと跳ねて主張する。

「は、はは……全く聞いてないのだな、君達」

 ディルは顔を引きつらせ、深々と溜息をつく。

「そうだな、私もイザベラ嬢にお土産を買っていくかな」

 ぽつりと零すと、皆、ディルに顔を向けた。流衣は目を輝かせて言う。

「やっぱり指輪?」

「お花じゃろ」

 アルモニカがふんと鼻を鳴らし、リドが口笛を吹いてからかう。

「プロポーズしろよ、プロポーズ」

「そうなるとディルは旅をできなくなるのではないか?」

 真面目に問うセトに、サーシャが笑う。

「それはそれで面白いので構わないのでは?」

 ディルはこめかみに青筋を立てた。

「君達、少しは私の話も聞けーっ!」

 ディルの叫ぶような怒りの声が、宿にビリビリと響き渡った。


 第十五幕、終わりです。

 次、ラスト(予定)の第十六幕です。

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