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おまけ召喚 第四部 紅の女王の帰還  作者: 草野 瀬津璃
第十五幕 紅の女王の帰還
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八十二章 凱旋パーティー 2

 食事の時間は楽しく過ごした。

 たまにミリアナが今の幸せを喜んで泣きだしたが、悪い涙ではないので、皆、笑い合う。それよりも、マティアスがミリアナをなぐさめて、たまに見つめ合うのが、どうもお尻がもぞもぞする感じがした。

 いちゃいちゃするなら、どうかよそでやって欲しい。

「あ、そういえば。あなたがたに渡すようにと、女王陛下から招待状を預かってきたんだよ」

 マティアスが急に切り出した。外套のポケットから、白い封筒を一枚取り出す。

「一枚だけだが、中にはあなたがた四人の名が記されているそうだ」

「招待ってなんですか?」

 流衣が問うと、マティアスは穏やかに説明する。

「以前も王弟殿下を救ってくれた礼にと、パーティーに招待したそうじゃないか。だが、前王の謀反(むほん)で台無しになったとか。陛下はそれを気にしておられたようでね、今回の凱旋(がいせん)パーティーには是非来て欲しいとのことだ。だが、無理はしなくてもよい、とも」

「旦那様は行政のほうの高官でらっしゃるの。つまり、文官ですわ。お忙しいのですけど、義弟の顔を見がてら、返事を預かるようにと言付かったそうですのよ」

 ミリアナが補足すると、セトとリドの表情に緊張が走る。

「陛下とじかにお話できるとなると……かなり上の方ですな」

「一緒に食事してますけど、大丈夫なんでしょうか」

「ははっ、何をおっしゃいます。あなたがたのおかげで、多くの貴族の子息子女が救われました。子を人質にとられていた貴族は皆、あなたがたを尊敬こそすれ、罵倒などしませんよ。ネルソフのトップを倒したそうですね、成果から見ても、英雄と言っても過言ではない」

 ちょうどお茶を口に含んだところだった流衣は、マティアスの言葉でむせた。

「げほっごほっ」

「おいおい、しっかりしろよ、ルイ。英雄だってよ、良かったな」

「リド、面白がってるでしょ」

「ああ。すげえ面白い」

「ひどいっ」

 そんなにはっきり言わなくてもと、流衣は眉を寄せる。

「参加しなくても、何か望みがあるなら、叶えてくださるそうだ」

「望み……」

 マティアスの言葉に、流衣は思うところがあった。

「ルイ、カザニフに紹介してもらったらどうだ」

 セトがそう言ったが、流衣は首を振る。

「他にお願いしたいことがあるんです。皆も一緒に戦ってくれたけど、どうしても叶えたいんだ。いいかな?」

 流衣が問いかけると、仲間達は顔を見合わせる。

 リドは口端を引き上げ、ニッと笑う。

「ああ、元魔王を還したのはお前だ。当然、ルイに権利がある」

「そうだ。精神汚染までされて、後遺症があるかもしれない。それに見合うものだろう」

 セトも静かに言い、ちらりとディルを見る。ディルは肩をすくめた。

「私は救われた身だ、何も言うことはないよ」

「アルモニカやサーシャも、同じことを言うさ。何を頼むつもりなんだ?」

 リドの問いに、流衣は元魔王との約束を口にする。

「今回の元魔王との戦いのこと、原因がこの国の過去にあったこと、全部、包み隠さず歴史書に残して広めるって約束してもらう」

 流衣の答えに、皆、顔に驚きを浮かべる。

 エルナーが恐る恐る問う。

「君はそれでいいの?」

 流衣は大きく頷いた。

「うん。約束したんだ、フェルナンドさんと。人が魔王になることは、確かに怖いことかもしれない。でも、あの人達は、それでもがんばって生きようとしたんだ。方法は間違っていたかもしれないけど、無かったことにして欲しくない」

「きっと反対されるぞ?」

 リドが真剣な面持ちで問う。

「それでも、望むよ。約束は守らなきゃ」

 流衣の返事を聞いて、皆の顔がほころんだ。リドが右腕を流衣の肩に回す。

「おう、それでこそ俺の親友だぜ!」

「そうだな、約束は大事だ。だが、ルイ。冷たい目を向けられる覚悟をしておきなさい」

「はい、セトさん」

 気遣うセトに、流衣は素直に返す。ふと見ると、ディルが目を潤ませていた。

「君と親友であることが誇らしい。微力ながら手を貸そう」

「そうね、まずはパーティーの衣装が必要だわ。また旦那様のお古を用意してあげる」

 ミリアナも応援する態度になって微笑んだ。

「お願いの件が駄目だったら、吟遊詩人に物語として流しておけばいいよ。その時は手伝ってあげる」

 エルナーが愉快そうに言った。黒さと悪戯っぽさが混じった笑みである。

 一人、マティアスだけ席を立つ。

「そういうことならば、陛下に伝えて根回しをしておこう。パーティー会場で突然言われては、パニックが起きるかもしれない。高官の何人かや警備責任者にも伝えておけば、騒ぎを鎮められるだろう。――ミリアナ、すまないが、彼らの手助けを頼んだよ」

「ええ、もちろんよ。いってらっしゃい、あなた」

 ミリアナがあいさつすると、マティアスは椅子にかけていた外套を手にして出て行った。

 最後にエルナーが会計をしようとしたら、マティアスがすでに払っていたことが判明した。

 あまりのそつの無さに皆が驚き、さすがは仕事のできる文官だと感心するのだった。


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