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おまけ召喚 第四部 紅の女王の帰還  作者: 草野 瀬津璃
第十五幕 紅の女王の帰還
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八十章 〈塔〉とネルソフの戦い 3



 夕闇の塔の外には、兵士の姿は無い。

 流衣達はそのまま城壁へと走り、選別の門を壊した時と同じように、皆で爆発魔法を使って大穴をあけた。

 壁の向こうから悲鳴が上がったが、風の精霊が破片を防いでくれたので、被害はないはずだ。

「牢があるのが西側で助かった。城の北側は銀鏡(シルヴィラ)湖だからな」

 邪魔な瓦礫を杖でつついてどかしながら、セトが言う。

「流石に湖を泳いで脱出は、囚人の皆様には厳しいでしょうね」

 セトが城下町へ出るのに続き、サーシャがアルモニカに手を貸して、大穴をくぐる。

「ああ、それに堀に囲まれてなくて助かった」

「堀があったって、魔法使いがいるんだ、橋をかけるくらいお手のもんだろ」

 ディルの呟きに、リドが笑って返す。流衣とオルクスも外に出ると、三名の兵士がこちらに槍を向けていた。

「お前達、反乱軍の仲間だな!」

「投降してもらおうか!」

 リドとセトが前に出る。

「お断りだ」

「同じく」

 下っ端のほうだったのか、兵士達はあっという間に叩き伏せられた。

 そこへまた新たな一団がやって来る。流衣達は、後方にいる少年を見つけて構えを解いた。

「ヴィンス君!」

「皆さん、お強いですね。鮮やかなお手並みに感服します」

 王弟であるシャノン公爵――ヴィンスは兵を伴ってやって来た。

「こちらは危険です、殿下。女王陛下のもとにお戻りください」

 アルモニカが注意すると、ヴィンスは首を横に振る。

「いえ、姉上とは別行動をしております。遊撃隊を率いての補佐が私の仕事です。こちらで爆発があったので確認に来たんですが、やはり予想は正しかった、あなたがたの活躍のお陰で、正面突破が比較的楽でした」

「女王陛下の指揮が良かったのでありましょう」

 セトが褒めると、ヴィンスは僅かに目を伏せる。

「民の鬱憤がたまっていたことも原因です。手引き者がいたので、外壁攻略は考えていたよりスムーズでしたが、恐怖は人を支配します。叔父の報復を恐れて、従うしかない者もいるのです」

「牢のほうでも一悶着でした。裏切り者が紛れていて……彼らのことをお任せしても?」

 ディルの頼みに、ヴィンスや後ろの兵士達も強く頷く。

「もちろんです。これで味方が増えますよ。人質のために身動きできない女王派もいるんです」

「それは良い知らせです。我々は何を?」

 指示を仰ぐセトに、ヴィンスは城下町を示す。

「またネルソフが魔物を放ったので、実は我々で駆逐しながら動いていたのです。助けていただいても?」

「魔物を? 本当に鬼畜の所業だ、許せん!」

 ディルの正義感に火がついたようだ。水色の目に闘志が浮かぶ。

「でもディル、武器も何もないのに……。体は平気なの?」

 心配する流衣に、ディルはにっと笑う。

「大丈夫だ。しかしそうだな……これを頂いていくか」

 先ほど、セトとリドが倒した兵士から長剣を奪い、ディルは頷く。

「ちと軽すぎるが、まあ問題なかろう」

「さっすが馬鹿力。頼りになるぜ」

 リドが愉快そうに笑って、ディルの肩を叩く。

「瓦礫で怪我をされないように、お気を付けて。では私どもは囚人の救出に参ります」

 ヴィンスらが大穴から中へ入ろうとした時、上からエルナーの叫び声がした。

「危ない!」

「え!?」

 驚いて上を見ようとした流衣だが、それより先に、オルクスごと背後からしがみつかれた。枯れ枝のような手が腕を掴むのが見え、ゾッとする。

「共に()こうぞ」

 オルクスが抱え直すのを感じながら、視線が下がる。沼に沈むように、流衣とオルクスは影の中へと落ちた。



「ルイ!」

 アルモニカがとめようと手を伸ばした指先で、あっという間に〈蛇使い〉が消えてしまった。

「くそっ、またか! これだからネルソフの連中は厄介なんじゃ!」

 影からの移動に、流衣とオルクスが巻き込まれたことに、憤りを隠せない。

「ごめん、止めきれなかった」

 エルナーがひらりと舞い降りてきた。〈蛇使い〉との戦いのせいか、白い服のあちこちに血がにじんでいる。

「君、大丈夫か?」

 気遣うディルに、エルナーは頷く。

「平気。白い服だから派手に見えるだけだよ。あの人、老師っていう、マスターの次に強いネルソフなだけあってしぶといんだ」

「そんな輩に連れ去られるなんて、ルイは大丈夫でしょうか?」

 ヴィンスの問いに、リドは肩をすくめる。

「分からない。精霊にはもう探しに行かせてるけど……今回は人型のオルクスが一緒だから大丈夫だと思いたい」

 皆、顔を見合わせた時、甲高い悲鳴が聞こえた。

「きゃあああ!」

 二歳くらいの子どもを抱えた女性が、必死に走っている。その後ろから、双頭の黒い犬が迫る。赤い目をギラつかせる犬を見て、セトが駆けだした。氷の魔法で壁を作り、親子を助ける。

地獄の猛犬(ヘルハウンド)か、嫌になるぜ」

 リドの愚痴に、ディルが剣を手に歩き出す。

「ルイのことは気になるが、我らは我らにできることをしようではないか、リド」

「議論しておる時間もないというわけか。もうひと頑張りしよう、サーシャ」

「ええ、お嬢様」

 アルモニカはヴィンスに会釈をすると、セトのほうへと走る。

「それぞれやるべきことをしましょう、殿下。エルナーはどうする?」

「僕も行くよ。魔物を放ってるネルソフを止める」

 リドとエルナーが動き出すと、ヴィンスも青紫の目に強い光を宿して、兵士達に声をかける。

「我々も参りましょう。彼らに負けてはなりません」

「ええ、殿下!」

 兵士らは敬礼で応えた。



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