表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おまけ召喚 第四部 紅の女王の帰還  作者: 草野 瀬津璃
第十五幕 紅の女王の帰還
52/69

七十九章 女王軍の反撃 2



「火、荒ぶりて敵を滅せ! ドーゴ!」

 流衣、アルモニカ、セト、サーシャの呪文詠唱が、王城前広場に響いた。中級の爆発魔法が炸裂し、選別の門が爆炎に包まれる。赤々とした炎が青空に立ち上った。

「きゃああ」

「逃げろ、襲撃だ!」

 この騒ぎに、広場にいた人々は慌てて逃げ出した。

「精霊、頼むぜ!」

 彼らを巻き込むわけにはいかない。飛び散った破片は、リドが風の精霊に命じて、全て城側へと吹き飛ばす。

 だから一般人に怪我人は出ていないが、門の向こうにいた兵士達の悲鳴は聞こえた。突然、瓦礫が降ってくれば驚くに決まっている。

 流衣達の攻撃をくらい、石造りの重厚な門は黒焦げになって、上半分が崩れ落ちた。

「行くぞ!」

 リドの号令に、流衣達は一目散に走り出す。門番や兵士がひるんでいる隙に、正面から堂々と中へ侵入した。

「えーいっ」

 流衣は走りながら、地面に次々に魔法を仕掛けていく。

 地面から生えだした蔦に足をからめとられる者、ぬかるんだ泥から動けなくなる者、凍った地面に転倒する者など、後ろでは阿鼻叫喚の事態になっている。

 内心、謝り倒す流衣だが、ただのトラップだから攻撃するよりマシだ。

 皆、走りながらそれぞれ称賛する。

「うおー、すげえな、ルイ! さっすが、守りと逃げなら強い奴だよ。地味にすげえ!」

「うむ。足止めとしては最高じゃ! 地味だが」

「ああ、地味だが上手い手だ」

「地味に効果的ですね!」

 それぞれ褒めてくれるが、流衣は全然嬉しくない。

「もうっ、皆して地味って言わないでよ!」

 思わず抗議した流衣だが、皆は薄情にも次のことを考えていて聞いていない。

「このまま俺が案内する。皆、頼んだぜ!」

 リドの声に、ヒュウッと甲高い風の音が応えた。強風が吹き、また後ろで悲鳴が上がる。

「立ち上がろうとした者が、倒されましたね」

 流衣の隣で、オルクスがしれっと言った。風の精霊は飛び出していくついでに、悪戯をしていったらしい。

 セトは笑いながら言う。

「はは、それはいい! だが、後ろからの攻撃に注意だ」

「今のところ、追手はいませんわ」

 サーシャの返事にセトはにっと口端を上げた。

「最も注意すべきはネルソフだ。とにかく走って距離を稼ぐぞ!」

 セトの指示に、皆、応と答えて、王城敷地内を西へとひたすら走る。

 夕闇という名がつけられているだけあって、塔は城の敷地内でも西にあった。

 貴族のための監獄塔は、堅固な壁に囲まれている。だが、門番は二人だけだ。彼らはすでにのびていた。

「何これ、どういうこと!?」

 驚く流衣の前で、風が渦を作って消えた。

 リドが肩をすくめる。

「俺は情報だけで良かったんだけど、先回りして倒してくれたそうだ。きゃあきゃあ笑ってる……。嬉しいでしょ? だって」

 虚空を見つめ、リドは皆を見回す。

「嬉しいよ! ありがとう!」

「気の利く精霊達じゃな。まっことありがたいぞ」

 流衣とアルモニカが空に向けてお礼を言うと、また風の渦が起こった。空耳だろうが、笑い声が聞こえたような気がする。

 リドが微笑んでいるのを見るに、風の精霊は本当に笑ったのかもしれない。

「ああ、ありがとう。他に、何か注意することがあったら教えてくれ」

 リドはうんうんと頷いて、精霊に話しかける。オルクスは魔物なので、精霊を見ることが出来るし話も出来るので、彼らの会話を聞き取って呟く。

「あとは敷地内に看守が十人ですか。他は下働きの使用人ですね」

「その看守は兵士でもあるらしい。死刑執行の役人が強いから気を付けろって……うおっ」

 リドがそう言った時、ごうっと突風が吹きぬけていった。

「……まずいな。こちらに衛兵が向かってるってよ。王は反乱軍の前で、人質を殺すつもりらしい」

「ふん、心理戦か。戦ではよくあることだ、反乱軍への見せしめにもなるし、市民の反抗心をそぐことも出来る。実に残酷な王らしい」

 セトは理解できると冷静に言ったが、アルモニカは眉を吊り上げて怒る。

「そんな真似、グレッセン家の……いや、神殿の名にかけて許さぬぞ! まずは門を閉じる!」

「うん、それで、次は?」

 はらはらしながら流衣が問うと、サーシャが右手を挙げる。

「二手に分かれましょう。救出と、門の上から威嚇する」

「それがいい。異論は?」

「はい!」

 セトの問いに、流衣は右手を挙げた。皆の驚きのこもった視線が流衣に集中して、流衣は首をすくめる。

「えっと、威嚇というか……ここを結界で覆って、兵隊さん達を止めればいいんだよね? 僕とオルクスがここに残ればいいかな」

 流衣の提案に、他の面々は目を丸くする。リドが流衣の肩を叩く。

「それもそうだな! つい戦う方にばっかり考えてたぜ」

「無駄な犠牲が出ないし、オルクス様がおられるから連絡も取れる。何かあっても……」

 アルモニカの続きを、オルクスが引き取る。

「わてがいますので、坊ちゃんは大丈夫です」

「では、お嬢様もこちらに……」

 サーシャがちらりとアルモニカを見たが、アルモニカは首を横に振る。

「おい、ワシを何だと思っとるんじゃ。発明の天才じゃぞ! 何か仕掛けがあったら、ワシがどうにかしてやれる」

「なるほどな。中に何があるか分からねえが、魔法の仕掛けがあると厄介だ。その方が速やかにディルや他の奴らを救出できそうだな」

「そうですね、リド様、お嬢様。助けた相手が元気でしたら、我々には味方が増えますし」

「ギャピッ」

 そこで忘れるなと言いたげに、リドの足元にいたノエルが頭を突きだした。

「自分も役に立つぞと言いたいようですね」

 オルクスの呆れ混じりの言葉に、ノエルは頷いた。流衣はふふっと笑い、皆もつられたように、笑顔になる。

 リドが右手を拳にして、突きだした。

「じゃあ、そういうことで!」

「作戦、開始!」

 六人と一匹は拳を突き合わせると、さっそく行動開始する。

 まずは門の中に入り、重たい門をオルクスがひょいっと閉めてしまう。かんぬきをかけ、更に門の前には鉄柵を落とした。

 流衣は門の見張り台の上に出ると、塔の敷地をぐるりと見回して、範囲を定める。これだけの広範囲に結界を張ったことはないが、維持するだけなら出来るはずだ。移動中は無理だが、止まっていれば、流衣は結界魔法だけは簡単に使える。

「邪魔者はわてが排除しますし、お守りしますので、リラックスなさってください」

 オルクスがにこりと笑って拳を握る。

 流衣は頷き、杖――水の七を両手で握って構えた。

 城の方から兵士がやって来るのが見える。風が吹いて、流衣の髪とマントをはためかせた。

 すうっと息を吸いこんで、範囲に意識を向ける。

 イメージするのは、半透明なドーム。堅牢で、全てを弾き、守る壁。

「じゃあ、行くよ。――〈壁〉!」

 流衣は意思をこめて、呪文を唱えた。杖が青く輝き、魔力が魔法へ変換される。

 一瞬、音が途切れた気がした。

「おお、見事な。やりましたぞ、坊ちゃん」

 流衣は目で頷いて、その場に座り込んで集中に入る。

 範囲が広いので、気を付けないとすぐに揺らぐようだ。まるで風に揺れる風船のような心もとなさがある。

 流衣はしっかりと紐を握り、風船が風に流されないように押さえておく立場だ。

 それが分かっているのか、無言になっている流衣の代わりに、オルクスが門の上から右手を挙げて合図する。

 下にいたリド達は頷いて走り出そうとし、すぐに足を止めた。

 大きな斧を持った大男が、夕闇の塔から出てきたのである。恐らく先程、風の精霊が注意していた死刑執行の役人だろう。黒い衣服を纏い、頭には黒い覆面をしていた。

「やれやれ、最初からわての出番ですか。面倒ですね」

 オルクスは周りを見回して、傍に敵がいないと分かると、見張り台から飛び下りた。

「はいはい、わてが引き受けますから、とっとと行って下さい」

 皆、心配もせずに走り抜ける。

「よろしくお願いします、オルクス様!」

「お任せします」

「ご武運を」

「お前、ちゃんとルイを守れよ!」

「ギャピ!」

 最後にリドとノエルが余計なことを言うので、オルクスは眉を吊り上げる。

「うるさいですよ、赤猿! チビ竜!」

 駆けてくるリド達に、大男はうなり声を上げた。

「こら、止まれ、貴様ら。ここは極悪人の監獄だ。――侵入者は排除する!」

 大男は斧を振りかぶった。だが、持ち上げた格好でがくりと動きを止める。

「何!?」

 驚く大男の右横に移動したオルクスは、大男の右腕、肘を片手で押さえていた。そのため、大男は振り下ろせずに動きを止めたのである。

「させるわけないでしょう。わてと少し遊んで下さい」

 オルクスがにこりと微笑むと、大男はひくりとこめかみに青筋を立てた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ