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おまけ召喚 第四部 紅の女王の帰還  作者: 草野 瀬津璃
第十五幕 紅の女王の帰還
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七十九章 女王軍の反撃 1

 


 雪のような白馬の上に、(よろい)を身に着けた麗しい女が乗っていた。

 女――ロザリー・クロディクス・エマ・ルマルディーは、鮮やかな赤い髪を結いあげ、冬空のように澄んだ青の目を輝かせ、居並ぶ兵士達に声をかける。

「我らはこれより、王都奪還のために戦う。見るがよい、今、あの城には()しき簒奪者(さんだつしゃ)がいる。あの者、叔父――いや、もう血縁者とも思わぬ。あの男、アルスベル・シモンズ・エダ公爵は、我が祖先、クリエステル・ルマルディーから代々続く王家から私を追い払い、祭りに興じる罪のない民を殺し、都を血に染めた」

 ロザリーは一年の辛苦を思い出して、悔しげに唇を噛みしめる。

 ロザリーの乗る馬の傍らには、実弟のヴィンセント・クロディクス・シャノンが立っており、彼も辛い顔をして頷いた。

「悪しき闇の魔法を使う魔法使い達と組み、貴族だけでなく、民を処刑し、国に恐怖を振りまいている。皆はそれが許せるか?」

 兵士達は、あの反乱で家族や知人を亡くし、または知人が罠にかけられた者も少なくない。

 拳を突き上げて叫ぶ。

「許せない!」

「悪しき簒奪者に、鉄槌(てっつい)を!」

 声を上げる彼らに、ロザリーは右手を挙げて止める。ぴたりと声がやんだが、彼らは興奮して目がギラついている。

「我らの土地を取り戻そう。しかし忘れるな、我々は殺戮のためにここにいるのではない。復讐のためでもない。平和を手にし、平穏な生活を手にするためにいる。逃げる者は追うな、一般人にも手を出してはならない。弱き者達には寛容と優しさを見せよ」

「寛容と!」

「優しさを!」

 兵士達が唱和する。

 ロザリーは満足げに頷いて、すらりと腰の長剣を抜く。銀の刃が光を弾いて輝いた。

「だが向かってくる者には、容赦するな。自分の命のため、共に戦う者達のため、戦おうではないか。そして、簒奪者に、我らの剣を味わわせてやろう。――正義は我にあり!」

「正義は我らとともに!」

「女王陛下、万歳!」

「陛下に栄光あれ!」

 声が上がり、わっと拍手が起きる。

 ロザリーはにっと笑い、馬首を返す。そして、王都の城壁をにらみつけ、剣を振り下ろす。

「全軍、進撃開始!」

「おーっ」

 野太い声とともに、兵士達は勢いよく走り出した。


      *


「報告! 前女王率いる反乱軍が、王都南門より襲撃! 突破されました!」

 兵士の報告に、ルマルディー王国の現王アルスベルは、ゆったりと玉座にもたれたまま眉をひそめる。

「数は?」

「はっ、約三千とのことです」

 アルスベルは鼻で笑う。

「三千? ふん、我が軍の兵はどうだ? 参謀」

「はっ、王の直属軍が五千、他将軍たちの兵を合わせ、全部で約一万です!」

 すぐに答える参謀の男の言葉に、アルスベルは頷く。

「一万に三千とは……あの娘も博打(ばくち)に出たようだな。――良かろう、叩き潰して、目論見の甘さを教えてやれ!」

 アルスベルの命令に、参謀はすぐに兵士達へと命令を飛ばした。


     *


「オーライ、オーライ。女王様の軍は、南門を突破したようだぜ。こちらに辿りつくのも時間の問題だな」

 リドの報告に、建物の陰に集まっていた流衣達は頷き合う。

「陛下はそんなに善戦なされておいでなのか?」

 アルモニカの怪訝な問いに、リドは肩をすくめる。

「俺は戦のことは分からねえよ。現王の軍の方が数が多いって、風の精霊が騒いでるが……女王陛下は頭脳明晰で通ってるから大丈夫じゃないか?」

「ええっ、王様の軍の方が、数が多いの? ここまで来られるのかな」

 不安になる流衣の肩をセトが叩く。

「どちらにせよ、君の友人を助けるチャンスだ。我々は自分の仕事をこなすしかない」

「そうですね、戦のことは反乱軍に任せて、こちらのかく乱を致しましょう。皆さん、顔は隠しましたね?」

 サーシャが全員を見回す。

 鼻から下を布で覆ったり、目元に仮面を付けていたりして、それぞれ顔が分からないように工夫している。後で手配されて困ることもあるが、それ以上に厄介なのがネルソフが出張った時だ。後々まで執念深く狙われる羽目になると面倒である。

(まあ、僕はブラックリスト入りしてるけど……)

 悲しい事実だが、気にしていても仕方がない。

「坊ちゃん、大丈夫ですか? 息苦しくはないですか?」

「平気。ありがとう、オルクス」

 青年の姿をとっているオルクスは、顔の上半分に白い仮面を付けている。見た目が派手なので、これから祭りに参加するみたいだ。

 それぞれがしっかりと武器を持ち、準備が整ったことを確認すると、セトは目の前の城門を見つめる。

「では、行こう。皆、選別の門をそれぞれ全力をぶつけて壊すのだ。そして目指すは――」

「夕闇の塔、ですね。セトさん!」

 流衣の言葉に、セトは頷いた。

「他の雑魚(ざこ)は適当にかわして、手筈通り、塔を目指す。はぐれるのは危険だ、固まって動くことを忘れるな」

「はい!」

 流衣の返事とともに、面々は力強く頷く。

「では、作戦開始だ!」

 セトの合図とともに、流衣達はいっせいに物陰から走り出した。


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