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おまけ召喚 第四部 紅の女王の帰還  作者: 草野 瀬津璃
第十五幕 紅の女王の帰還
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幕間14

 


 ルマルディー王国王都近郊の草原には、勇者一行がいた。

「エマ……ごめんな……」

 体のほとんどが黒いしみのようなものに染まった青年は、か細い声で謝り、目を閉じた。

「アーク? アーク、嘘、やだっ!」

 息を引き取ったアークの手を握ったまま、茶色い髪の女性――エマイユが悲鳴のような声を上げる。

 エマイユは何度かアークに呼びかけたが、闇の魔法を使ったせいで蝕まれた体はとっくに限界を越えていた。エマイユの危険を知り、乗っ取っていた魔王の魂を押さえつけ、最後に本物のアークが顔を出せただけでも幸運だった。

「アーク、そんな、いやあああ」

 エマイユの悲痛な泣き声が響くのを背に聞きながら、達也は剣を構えて、仲間である神官ゼノをにらみつける。

「てめえ、魔王の亡霊! ゼノから出て行け!」

 達也は激しく怒っていた。

 ようやく追い詰めたかに思えたのに、アークからゼノへと魔王の魂が乗り移ってしまったのだ。

 大切な仲間に手を出されたのは勿論、爪の甘い自分に腹が立っていた。

「ふっ、それは出来ない相談だ」

 ゼノの顔で、魔王の亡霊は笑った。

 普段のゼノが持つお人好しな雰囲気は消え、危険な感じがひしひしとする。まるで魔物を前にした時のようだと、達也は油断なく構えていた。

(だが、俺はこいつを攻撃出来ない……)

 ゼノはリンクやルーデルとともに、旅の出発地からずっと共に過ごしてきた仲間だ。家族や友人を越えた絆を結んでいる。とても切り捨てられない。

「そっちの男よりも魔力が少ないが……つなぎにはちょうどいいか。俺の目的は別にある、その時にお望み通り、解放してやろう」

 ゼノはにやりと口端で笑い、杖を構える。

「ではな、勇者一行よ」

「おい、待て!」

 達也は叫ぶのが精いっぱいだった。

 ゼノの姿が掻き消える。転移魔法でどこかに飛んだようだ。

「そんな……」

 遣る瀬無さに、達也は地面に膝を着く。少し離れた岩陰に隠れていたリンクとルーデルが、心配そうに駆け寄ってきた。

「タツ、大丈夫?」

「怪我はない……けど」

「うん、ゼノのこと、心配だね」

 少女は優しく達也を抱擁し、背中を叩いた。

 こんな幼い少女に慰められていることに、達也はますます情けなさを感じたが、不思議とリンクは他人を癒す。達也も慰められた。

「ちょっと、待って。嘘、いや!」

 その時、エマイユが再び泣き叫んだ。

 どうしたのかと振り返った達也は、アークの体が灰になり、さらさらと風に飛ばされて消えるのを見た。

 エマイユがその灰を必死に掴んで、右手の拳を握りこむ。リンクは悲しげに事実を伝える。

「それは闇の魔法に蝕まれた者の末路。魔王の亡霊でもなければ、普通はとっくに死んでるよ。死体も残らないなんて、かなり末期だった。意識が戻ったのだけでも奇跡だよ」

「ううう、ひどい! アークは何も悪くないのに! どうしてこんな目に遭わなきゃいけないの!」

 エマイユは悔しげに左手で地面を叩く。遺灰を握った右手は、大事に抱え込んでいる。

「悪くない。ただ、心が少し弱かっただけ。そこをあの亡霊に呼び寄せられてしまったの。魔王は……いえ、闇の魔法は、心の隙間に入り込む。エマ、辛いと思うけど、どうか負けないで」

 ぼろぼろと泣きながら、エマイユはリンクにすがりつく。

「託宣の巫女様、お願いです。少しでも憐れだと思うなら、アークのあの世での幸せを……、運命と生命の女神レシアンテ様の花園へと旅立てるように、祈ってください。お願いします」

 幼い子どものようにしがみつくエマイユの頭を優しく撫でて、リンクはこくりと頷いた。

 ソプラノの澄んだ声が、朗々と祈りを紡ぐ。

 それは風に乗り、痛い程に澄んだ青空へと吸い込まれた。

 達也やルーデルは無言のまま天を見上げ、冥福を祈るのだった。

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