七十八章 カウントダウン 2
夕食をとった後、流衣達の部屋で説明会となった。
話を聞き終えたアルモニカは、あっさりとした感想を返した。
「女王陛下の盟友、カルティエ様の仕業なら仕方ないな」
うんうんとしきりと頷きながら、更に付け加える。
「長くを生きられておられる黒竜じゃ、何かお考えがあったのじゃろう」
「いや、単にミスっただけっぽかったぜ?」
リドが口を挟んだが、アルモニカは聞いていないようだった。
「ディルの為に反乱軍に入ったのなら、反論する理由もない。で、ワシは何を手伝えばいい?」
わくわくと目を輝かせるアルモニカを見て、流衣達はさっと目を見交わした。
「どうしよう、リド。アルがやる気になってる!」
「面倒くせえな。一番動いたらまずい奴だろ? どうするんすか、セトさん」
「君達、困るとすぐに私に意見を求めるのはやめなさい。さてどうしたものか」
目で語り合ったところ、結局、セトが口を開く。
「そういえば、城への忘れ物申請はどうなったのかね?」
サーシャは首を横に振る。
「いえ、まだお返事を待っているところですわ」
「だったらその返事次第で、可能なら受け取りに行って欲しい。それ以外は、目立つ行動は控えるべきだからな、宿で待機だ。アルモニカ嬢、ルイを帰す為の魔法陣について、君も知恵を貸してもらっても構わないかね?」
アルモニカを室内で大人しく待機させつつ、長所を生かしてのける素晴らしい切り返しである。
セトに対し、流衣とリドは内心拍手喝采した。
この提案に、アルモニカも満更ではない様子で頷く。
「うむ、もちろん構わぬぞ。セト先生の補佐とは光栄じゃ」
「わてに答えられる範囲であれば、もちろんお手伝いいたしマス。坊ちゃまの為ですからネ」
オウム姿のオルクスが、胸のほわ毛を強調するようにふんぞり返った。
偉ぶっている様子も可愛いと、流衣は笑顔になる。
「僕も頑張ります。よろしくお願いします」
リドはぐっと拳を握って宣言する。
「俺は偵察の方に集中するよ」
「わたくしも、日中は噂を集めに出かけてまいりますので、お嬢様のことをどうかよろしくお願いします」
サーシャの頼みを、セトは快く引き受ける。
「分かったが、今の王都は危険だからな。無茶はしないように、神殿を中心に行動してくれ」
「畏まりました」
全員、顔を見合わせ、気合とともに頷く。
それぞれが自分のやるべきことをしようと、心に決めた瞬間だった。
*
分厚い灰色の雲から、白い雪が舞い降りてくる。
リドは一人、防寒着を着こんで、開け放した窓辺に座っていた。他の者達が男部屋の方に集まっているので、代わりに女部屋にいる。
真冬に窓を開けている為、皆がいる場所でこれをすると、仲間が風邪を引いてしまうのを気遣ってのことだ。
冷たい風が頬や髪を撫でて吹き付ける。
リドにはとても清々しく、心地良い。
その時、風がカーテンをふわりと揺らした。
リドは閉じていた目を開ける。風の精霊によれば、ディルはまだ夕闇の塔にいるようだ。
無事を確認出来たので、ほっと一息つく。
「おい、クソオウム。夕闇の塔の最上階。西側の、外から見て左から二番目の個室だ」
「クソは余計です! 他に気を付けることは?」
椅子の背にとまっていたオルクスは、リドの報告を聞いて、更に質問する。
「選別の門には近付くな、だと。使い魔だろうが魔物だから弾かれるらしいぜ」
リドはそう教えた。風の精霊達はかなりからかって笑っているが、そこまで言うと絶対にオルクスが怒ると思ったので省略した。
だが、オルクスは空中に向けて怒った。
「笑うんじゃありませんよ、うるさいデス! まったく、風の精霊ときたら、すぐに遊びだすのですから。こら、私の羽に触るんじゃありません!」
リドには姿が見えないが、オルクスには精霊が見えているのか、自分の尻尾に向けて怒鳴りつける。
その声が響いたのか、隣の部屋から流衣がやって来た。
「どうしたの、オルクス」
心配そうな流衣に、オルクスは態度を一変させて大人しくなった。
「なんでもございませんよ、坊ちゃま。ただ、このやんちゃな精霊達をしかりつけていただけです。――だから触るなって言ってるでしょう」
ぼそりと呟いて、オルクスは後ろに向けて蹴る仕草をした。
――きゃあ、第三の魔物が怒った
――こわーい
リドの耳には、風の精霊が笑いさざめく声が届いた。
流衣はよく分からないという顔をしたが、オルクスの後ろに何かいるらしいのは分かったのか、真面目な顔で話しかける。
「ええと、風の精霊さん? ディルを助けるのを手伝ってくれてありがとう」
すると風が起こり、流衣の前髪を揺らして、外へと吹き抜けていった。
「どういたしまして、頑張るってさ」
リドが伝えると、流衣は嬉しそうにする。
「そう、良かった。オルクスもよろしく頼むよ。僕は〈塔〉から持ってきた本を、頑張って読んでおくから」
「お任せ下さい、坊ちゃま! まずはこれから夕闇の塔に行って参りマス。ディルを励ましてまいりますので、ドウゾ勉学に励まれて下さい」
ばさばさっと羽ばたく仕草をするオルクスに、リドはもう一度言う。
「夕闇の塔の最上階。西側の、外から見て左から二番目の個室だぞ?」
「何度も言わなくても分かってます!」
間髪入れず言い返したオルクスは、流衣にぺこりと頭を下げる仕草をしてから、窓の外へと飛び出していった。
流衣が窓辺に寄って、灰色の空にかすむ緑の孤影を見送る。
「ディルは塔にいるから、今のところは無事みたいだ」
「そっか、良かった……。オルクスが帰ってきたら、もっと詳しく分かるね。お疲れ様、リド。ここは随分冷えてるよ、凍えてるんじゃない? リドも隣の部屋においでよ、お茶を淹れるから、温まった方がいい」
「そうだな、一仕事終えたし、少し休憩するか」
リドは腰掛けていた木枠から下りると、窓を閉める。
そして、なんとなくもう一度空を仰いでから、流衣に続いて部屋を出た。




