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おまけ召喚 第四部 紅の女王の帰還  作者: 草野 瀬津璃
第十四幕 反撃ののろし
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七十八章 カウントダウン 1



「皆さん、お仲間になったそうですね」

 今後の話をリリエと詰めていると、リリエのテントにヴィンセントがやって来た。敬礼するリリエ達に混じり、流衣は明るい声を上げる。

「ヴィンス君! わあ、良かった。元気そうだね」

「ええ、お陰様で」

 ヴィンセントはにっこり微笑み、リリエが流衣の言葉遣いに口出ししようとするのを、右手を挙げて止める。

「ああ、ヴェルディー将軍、構わないよ。ここは非公式の場だし、ルイ達とは友人だから」

「左様でございますか。ヴィンセント様がよろしいのでしたら、私は構いません」

 リリエが慇懃に返したところで、ヴィンセントも席に加わった。

「今はどのようなお話をされているのですか?」

「彼らは王都に知人を――アルモニカ嬢を残してきたそうなので、これから戻るつもりだとか」

「アルモニカ嬢? 風の神殿の次期当主のことですか」

 驚くヴィンセントに、流衣達は頷く。

「アルが暴走してないか心配なんです」

「……あのご令嬢がですか? 暴走?」

 ヴィンセントは訳が分からないという様子で、目をぱちくりさせている。どうやら面識はあるようだが、猫を被っている時のアルモニカしか見ていないのだろう。

 リリエがにやりと笑って付け足す。

「ちなみに、殿下。こちらのリドが、リディクス・グレッセン様ですわ」

「え? あの方は確か盗賊に殺されたと聞いていますが」

「実際は盗賊にさらわれて行方不明になっていたそうです」

「はあ、そんなことがあるのですね。素晴らしい幸運に感謝します。良かった、ご家族もさぞお喜びでしょうね」

 自分のことみたいに嬉しそうにするヴィンセントに、リドは照れ笑いを返す。

「ありがとうございます」

 そこで少し不思議そうにしたヴィンセントは、はたと何かに気付いて頷いた。

「ああ、だから公式に発表されていないのか。アルモニカ嬢が人質にされてしまうから」

「そういうことですわ。そして、お二人とも、ささやかな自由時間を得たとか」

「姉上が王位を奪還した折には、是非、戻ってきて下さいね、リディクス殿」

 リリエの説明を受け、ヴィンセントは真面目な顔で言う。

「いえ、俺はまだただの木こりなので、リドとお呼び下さい」

「私のこともヴィンスと。ディルのことは残念ですね、私も力になって差し上げたいが……。追われる身なのが歯がゆいです」

 短い期間だが、流衣達とともに旅をしただけに、ヴィンセントはがっかりした様子だ。

「大丈夫、ヴィンス君。ディルのことは、僕らが絶対に助けるから!」

「そうですよ。あの頑固者を、牢から引きずりだしてやります!」

「はは、なんだか趣旨が変わっていないか、リド」

 思わずという調子で、セトは笑いを零す。そして、机に広げた地図の上、王都に視線を落とした。

「では話を戻しましょうか。我々はまず、王都に戻って、アルモニカ嬢と合流します。そしてそのまま潜伏。オルクス様やリドの技で情報を集め、あなた方に送るという手筈でよろしいか?」

 セトの問いを、リリエとエイクは肯定する。エイクは心強そうに、オルクスとリドを順に見た。

「ネルソフの連中が見張る中で、秘密裏に動くのは至難の業です。非常に助かります」

「そして、私達はあなた方が王都に攻め入るタイミングまで、宿で大人しくしております。ルイ、君の用事はそこで少し進めておこう」

「はい、セトさん」

 流衣が首肯するのを見て、セトは続ける。

「そして、王都に反乱軍が攻め込んだら、我らが先に出向いて、選別の魔法がかけられた門を破壊します」

「ルイ達はそのまま夕闇の塔を目指し、囚人達を救出してちょうだい。場合によっては、先に処刑場に向かうこと」

 リリエはきっぱりと言い、流衣達を見回した。

「あちら側は、城の外れにある夕闇の塔を真っ先に突くとは思わないはず。あなた達の素早さが物を言うわ。――よろしくね」

 流衣達は顔を見合わせ、大きく頷きあう。

「はい!」

「俺の技の見せ所かな」

「転移魔法とリドの風の技があれば、通り抜けるのは楽だろう」

「わてもおりますしね!」

 リリエとエイク、ヴィンセントの顔に笑みが浮かんだ。

「頼もしい味方が出来て良かったですよ。ただし、絶対に無茶はしないで下さい。皆、無事に再会しましょう」

 ヴィンセントの言葉に、それぞれ頷きを返す。そして、流衣達は連絡方法を確認してから、さっそく転移魔法で王都へ戻った。


     *


 宿に顔を出すと、アルモニカとサーシャが驚いた顔をして、それからアルモニカが走り寄ってきた。

「ルイ! 兄貴!」

「えっ、わあ!?」

 感極まった様子で、アルモニカは流衣に飛びついた。

 支え損なって尻餅をついた流衣の襟首を、アルモニカががっしりと掴む。

「なかなか帰って来ないから、ワシがどれだけ心配したと思っとるんじゃ! 連絡くらい寄越してからいなくならんか! 馬鹿者!」

「あ、あ、あ、アル。ご、ごめっ」

 流衣は止めようとするが、アルモニカの暴走を止めきれない。青年姿をとっているオルクスが、慌てて止めに入った。

「落ち着いて下さい、アルモニカ嬢」

「おお、オルクス様。申し訳ありませんのう」

 ぴたっと揺さぶりが止まったので、流衣はげっほごっほと咳き込む。そしてくらくらと目の回る頭を手で押さえた。

「ああ、世界が回ってる……」

「お前、どんだけだよ。恐ろしい奴」

 リドが首をすくめてアルモニカに言い、「大丈夫か?」と流衣の様子見をする。

「そもそもだ。連絡を取れない状況だったから、黙っていなくなったのだがなあ」

 呆れた様子でセトは首を横に振り、テーブルに着く。落ち着いた流衣は、よろけながら立ち上がってその隣に座った。

 気をきかせたサーシャが、水差しの水を注いで、グラスを流衣に差し出してくれた。ありがたく飲む。

「時間になっても戻らないので、心配していたのです。いったい何があったのですか?」

「それについて話し始めると長くなる。先に夕食をとっても構わないかね?」

 セトはふうと大きく息をつく。

 流衣はそこで初めて窓から外を見て、とっぷりと日が落ちていることに気付いた。テントで話しあいをするうちに、夜になっていたのだろう。

「それは構わないのじゃが、皆、落ち着いて聞いて欲しい。実はお主らの友人が……」

 意を決した様子で話しだすアルモニカの言葉を、リドは手を挙げて遮った。

「処刑されるんだろ?」

「なっ、何故知っておるんじゃ?」

「まとめて後で話すから、先に食事してくるよ。ぼやぼやしてると、人気メニューが売り切れちまうからな」

「なんじゃ、悠長に聞こえるが……。ふむ、何やら方針は固まっておるようじゃな。顔付きに迷いがない。分かった、ワシも食事に行くよ。お主らの顔を見たら、急に腹が空いてきた」

 アルモニカが腹をさする仕草をするので、流衣はにっこり笑った。

「そんなに心配してくれたの? ありがとう、アル」

「ワシはお主だけではなく、皆の心配もしておったぞ!」

「え? 分かってるけど……なんで怒るのさ」

 にらまれた流衣は訳が分からず、身を引きながら返した。


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