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おまけ召喚 第四部 紅の女王の帰還  作者: 草野 瀬津璃
第十四幕 反撃ののろし
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七十七章 反乱軍のアジトにて 4



 夕闇の塔――高貴な身分の囚人を入れる監獄の一室で、ディルははめ殺しの窓の外を眺めていた。

「ここにいるくらいなら、屋敷で幽閉の方がマシだな」

 貴族の為の監獄だからベッドや家具は揃っているし、清潔だが、窓を開けられないのがディルには辛い。

 差し入れられた本を読むか、鍛錬をするくらいしかすることはなく、ディルは命の刻限が来るのをじっと待っていた。

 怖くないと言えば嘘になる。

 だが、怯えて醜態をさらすのは、騎士としての矜持が許さない。

 一日のうちに何度か、家族と師匠と、友人の顔が思い浮かんだ。

 ディルの心残りは、イザベラのことだ。結婚の約束をした、好きな女性を置いていくのは身を切られるくらい辛い。

(もしここを生きて出られたら……一人前がどうのと言い訳せずに、あの方を迎えに行こう)

 果たしてあの冷酷な王が、いつまでディルを生かしておいてくれるものか疑問だが。

 あの王はディルに言った。

 死ぬのが嫌なら、師匠の首を持ってこい、と。

 そんなことは御免こうむると答えたから、ディルはここに送られた。

(師匠、上手く逃げて下さいよ。それがこの国の為だ)

 時の権力者に左右されるのは、力ある地位の家に生まれた者の宿命だ。もしディルが恨むとすれば、侯爵家に生まれたことだろう。

 だが、この家に生まれたから、イザベラと婚約出来たのだ。そう思えば、違う風に生まれたかったとも思えない。

「ノエルは今、どこにいるのだろうな? 上手く餌を取れているといいが……」

 ふと思い出すのは、白銀の小さな竜だ。

 今まではディルが魔昌石の欠片を与えていたが、外に放した今、どうやって食事をしているのやらと、幼い竜のことが心配になる。

「……まあ、大丈夫か。ノエルは根性があるからな」

 ディルはうんうんと頷いた。

 例え幼い竜だろうと、ノエルも騎士なのだ。きっと大丈夫だろうと思い直し、消えゆく西日に目を細めた。


     ◆


 ディルの心配は的中し、自力ではろくに餌も取れず、ノエルは森の中で弱っていた。

 小型竜は魔力の溜まり場に卵を産み落とす。かえった小型竜の子どもは、魔力の溜まり場で自然と餌を取ることを覚え、似たような場所を探すことで、自分の住処と餌場を見つけていく習性があった。

 だが、人の手で育てられたノエルは、外にある魔力の溜まり場がどんなものか知らない。

 道端に落ちている、クズのような魔昌石の欠片を食べて、どうにか飢えをしのいでいたが、もうそろそろ限界だった。

「ピギャ……」

 情けなさに、ノエルは木の根元で涙を零した。

 せっかく主人であるディルに、流衣やリド宛ての手紙を預かってきたのに、このままここで力尽きるのだろうか。

 人型になれたが、変身には魔力を使いすぎる。

 誰かに言づけることも出来ない。

 飢えて死ぬか、魔物に喰われるか、どちらにせよノエルは近い内に死ぬだろう。そんなノエルの周囲で、草が風にざわめいた。


 ――あら? この子、見たことあるわ。

 ――ほんとだわ。可愛い竜の子。私達の可愛い子のお友達よね?

 ――どうしたの、おチビちゃん。


 風の精霊達が声をかけるが、ノエルにはただの風音にしか聞こえない。


 ――弱ってるのね、可哀想。

 ――この子が死んだら、私達の可愛い子が悲しむわ。

 ――まあ、それってとっても悲しい!


 精霊達はリドの嘆きを想像して、それは嫌だと騒いだ。


 ――この子のこと、連れてってあげましょうよ。

 ――ええ、運んであげたら、きっと可愛いリドも喜ぶわ。

 ――それって素敵! 

 ――そうしましょう。

 ――そうしましょう。


 きゃっきゃっと嬉しげに騒ぐと、風の精霊達はノエルを風で包み込んだ。

 驚いたのはノエルである。

「ぴ、ピギャッ!?」

 すっとんきょうな悲鳴を上げるが、弱り切ったノエルでは刃向うことも出来ない。

 怯える子竜にお構いなしに、風の精霊達はノエルを天高く運び上げる。

 そして、空を疾く駆けて、リドの元へと送り届けた。



     ◆



 少し話し合いたいと、テントに流衣達三人だけにしてもらった。

「リド、セトさん、どうします? 反乱軍ですって」

 流衣の問いかけに、二人は難しい顔をしている。

「入らないと、ここで足止めをくらうってことだろ?」

「私達の目的は、ルイを元の世界に返還する方法を探すことだ。彼らに加われば、王城にある荷物が運良く残っていた場合、取り戻せる可能性は上がるが……」

 二人とも、顔には危険だと書かれていた。

 その時、リドがぎょっとした様子でテントの入口を振り返った。

「お、おいっ。ちょっと待て!」

 誰かに叫んで、テントを飛び出すリド。

「リド、待って。どうしたの?」

 流衣達もテントから出ると、頭上の空で、ごうっと風のうなる音がした。

「ぴぎゃああああああ」

 そして、憐れな鳴き声とともに、小さな白い塊が降ってくる。

 リドは右に左に移動して、落ちてきた子竜を受け止めた。

「セーフ! ――こら、お前達。手荒な真似をするなよっ」

 リドが虚空に向けて怒ると、風が吹いてテントをばたばたと揺らして通り過ぎていった。まるでごめんと謝ったみたいだ。

「どうしたの、なんの騒ぎ!」

 違うテントからリリエが飛び出してきた。見張りの兵達も、何事かとこちらに注目している。

「ごめん、リリエさん。――風の精霊から届け物だ。ディルの使い魔だよ」

「まあ、ノエルじゃないの」

 リドの手の中で目を回している小さな竜を見つめ、リリエが駆け寄ってきた。ノエルは背中に布袋を背負っていた。

「ディルからに違いないわ。――手紙ね。あなた達にみたい」

 封筒を取り出して、リリエは流衣の方へ手紙を差し出す。

 流衣達は顔を見合わせ、手紙を受け取った。


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