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おまけ召喚 第四部 紅の女王の帰還  作者: 草野 瀬津璃
第十四幕 反撃ののろし
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七十六章 封鎖された〈塔〉 2



 目が覚めると、部屋の中に日射しが注ぎ込んで明るかった。

 爽快な気分で身を起こした流衣は、窓の向こうに見えた朝日に目を細める。

『おはようございます、坊ちゃん』

 オウム姿のオルクスが、枕元でくいっと頭を上げて挨拶をした。流衣も挨拶を返す。

「おはよう、オルクス」

 すると声に気付いた仲間達が、テーブルの方からこちらを振り返った。真っ先にリドが軽いノリで挨拶をする。

「おう。おはよう、ルイ」

「気分はどうじゃ? これから朝食に出るつもりだったんじゃが」

 アルモニカが様子見をしながら言った。セトやサーシャは黙ってこちらを見ている。

「元気になったよ。たまってた疲れも取れたみたい」

 流衣の返事に、それぞれが笑みを浮かべた。そして、サーシャが言う。

「それは良かったです。ですが昨日の今日ですし、朝食は私がお持ちいたしますわ。ゆっくり身支度なさって下さい」

「え、でも……」

「サーシャの言う通りじゃ。いつ移動になるか分からんのだし、ゆっくりしていろ」

 申し訳ないと言葉を濁す流衣に、アルモニカがきっぱりと言った。

「セトさんの分も持ってくるよ。昨日決めた件の、こいつへの説明を頼んでも構わないか?」

 リドの問いに、セトは頷く。

「もちろんだ。ルイ、ひとまず着替えなさい。その後、これからの予定を話そう」

「分かりました」

 ちょっとばかり置いてけぼりな気分だが、流衣は頷いた。リドやアルモニカ、サーシャが連れだって部屋を出て行くのを見送りながら、現状把握が最優先だと思い直し、着替えに手を伸ばした。



 身支度を整えると、セトが茶を淹れてくれた。

 二人そろってテーブルにつき、ほんのり渋い味のお茶を飲む。ほっと息を吐いたところで、セトが話し始めた。

「この後の予定だが、二手に分かれることになった」

「二手に?」

「そうだ。王城に忘れ物申請に行く組と、〈塔〉に向かう組だ。アルモニカ嬢とサーシャが王城に、残る我々が〈塔〉へ行く。落ち合う場所はこの部屋だ」

 樫のテーブルの表面を、セトはとんとんと指で叩いた。

 流衣はなんとなく扉の方を見て、不安になる。

「女の人達だけ別行動で大丈夫なんですか? アル、襲撃事件の時にネルソフに狙われていたのに……」

「ああ、その点は大丈夫だ。幾らネルソフの勢いが良いとは言え、表立ってのものではない。風の神殿の姫として現われた彼女に手出しは出来まい。何故なら、おおっぴらにネルソフと繋がっていると示すと、現王にとってはイメージダウンになるからだ。ただでさえ反乱でその座を勝ち取った王だ、それは避けたいだろう。それに、不利な状況ではあるが、ラーザイナ魔法使い連盟は潰れたわけではないしな」 

「え? そうなんですか?」

 流衣は思わず身を乗り出した。

 流衣は連盟に属していないので、その辺の事情がよく分かっていない。

「ああ。今の連盟は、一年前の幹部がいない状態で細々と運営しているといった格好だ。動向をにらまれているとはいえ、魔王復活の影響であちこちに魔物は出る。兵士だけでは対処しきれないから、冒険者の手は必要になる。そうなると、魔法使いの集う連盟にも声がかかる」

 言われてみれば確かにそうだ。

 流衣は少し考えて、疑問を覚える。

「あの、そもそも、今の王様はどうして〈塔〉を襲ったんでしょう? 潰してしまうよりも、懐柔していた方が良かったんじゃ……」

「推測になるが、反乱軍の中で最も強い兵力がネルソフで、彼らの協力を得る代わりに、〈塔〉への襲撃を認めたのはないか。そう思っている。昔から、連盟とネルソフとは敵対していたからな。私達は絶対に闇の魔法を認めない。そんな私達を、彼らも目の仇にしている。どうやったって相いれないのだよ」

 セトはどこか疲れたように、静かな口調で答えた。

「だから、危ないのは〈塔〉に近付く私達だ。昨日、君が寝ている間に調べてきたのだが、あの事件以来、〈塔〉は封鎖されているようだ」

「封鎖? それって、入れないんじゃ……」

 流衣の問いに、セトは首を横に振る。

「リドに風の精霊を使って調べてもらったところ、中に入れないように門が壊され、正門や裏門には見張りがいるらしい。門が壊れているなら好都合。転移魔法で侵入出来る」

「え? 門が壊れているとってどういうことですか?」

 流衣には事情が分からないので、首を傾げてばっかりだ。セトは生徒に教えるみたいに、丁寧に返す。

「〈塔〉の門は選別の門という特殊な魔法がかけられていたのだ。悪意ある者を入れないようにする魔法だ。侵入するのは悪意だろう? 普通だったら弾かれていたが、門が壊れているから弾かれない。そういう意味だ」

「……なるほど」

 便利な門があるものだと、流衣は一つ頷いた。テーブルの上にちょこんと座ったオルクスが流衣を見上げて言う。

「とはいえ、お気を付け下さいマセ。中で闇の魔法使い達に会うかもしれませんノデ」

「もし見つかっても、転移魔法で逃げられる。そこはまあ、リドがいるからどうにかなる。風の精霊がいると、人のいない場所を選ぶのは随分楽だ。だからリドの協力は必要だ。そして、私とルイだ。〈塔〉の図書館で資料を探す時、君には傍にいてもらわなくては困る。本によっては持ちだせない場合もあるからな」

 流衣は目を瞬く。

 行動の流れは分かったが、そういえばどうしてセトは〈塔〉の図書館で本を探そうと思ったのだろう。転移魔法の開発者はセトだ。

 流衣がその疑問を口にすると、セトは満足げに頷いた。

「とても良い質問だ。確かに転移魔法という形に作り上げたのは私だが、これは風の魔法、記憶を読み取る魔法、イメージを伝える魔法が関係している。そして、召喚魔法の記録の蓄積もある。カザニフに行けばそれで済むかもしれないが、何か使えそうな資料があれば持ちだした方が賢明だ。――そもそも、図書館が無事かすら怪しいがね。奴ら、古来からの積み重ねを灰にしているかもしれん」

 図書館が燃やされている様子を想像したのか、セトは頭が痛そうに手の平を額に押し当てた。

「それでも行くのは何故デス?」

 オルクスが不思議そうにセトを見る。セトは答える。

「最重要書庫は無事である可能性が高いのだ。連盟でも一部の者しか場所も入り方も知らない。地下にあるからな」

「だったら無事かもしれませんね!」

「そういうわけだ。君も具合が戻ったようだし、午後には出かけよう。善は急げ、だ」

「はい!」

 流衣はやる気に満ちた声で返事をした。

 帰る為に必要な鍵が、少しずつ集まろうとしている。それへの希望と、わずかな不安が胸に満ちていた。


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