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おまけ召喚 第四部 紅の女王の帰還  作者: 草野 瀬津璃
第十四幕 反撃ののろし
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七十六章 封鎖された〈塔〉 1



「ちょ、ちょっとごめん。オルクス、それ以上は待って」

 ぐるぐると回る視界に降伏宣言を出した流衣は、その場にしゃがみこんだ。

 オルクスの転移魔法により青の山脈からからくも脱出した流衣達は、ネルソフに足取りを掴まれるのを恐れ、転移を繰り返して遠方へと逃げ延びた。

 何回目になるだろうか。片手の回数は越えた気のする転移魔法で、流衣がバテた。オルクスは流衣の使い魔だ。オルクスが魔法を使いすぎると流衣の魔力が同じだけ減りすぎて、流衣の体調に影響が出てしまう。

 流衣自身の持つ魔力自体はまだまだあるのだが、急激な消費に流衣の体力が追いついていないせいで、気持ち悪さに襲われた。前に小型竜(ミニドラゴン)のノエルに魔力を喰われた時みたいに。

「ああっ坊ちゃん、申し訳ありません!」

 亜人の青年の姿をとっていたオルクスは、流衣の異変に気付くや、平伏せんばかりに頭を下げ、地面へと座りこんだ。心配そうに流衣の顔を覗き込む。

「お顔の色がよろしくありませんね。逃げるのはここまでにして、休みましょう。ここまで来れば、あのネルソフの長にも足取りは掴めますまい。どこに奴らの仲間がいると知れませんから、長居は無用ですが」

「オルクス、休むにしたってここじゃ目立つ。ルイを背負え、それですぐに移動しよう」

 リドの強張った声がした。しゃがみこんだまま顔を上げた流衣は、辺りを見てぎょっとした。大きな道のど真ん中で、通り過ぎる人々の視線がこちらに向けている。リドの言う通り、目立ちまくっている。

「おい、大丈夫か? すぐに移動で悪いな……」

 流衣と目が合うと、リドは申し訳なさそうに眉を寄せた。するとアルモニカが口を出す。

「魔力減少で、エネルギーのバランスが崩れておるだけじゃ。少し休めば戻る。ちょっとの辛抱じゃぞ、ルイ」

 まるで姉のような口調のアルモニカ。話し方は偉そうだが、顔は心配そうなので、ちょっともったいない人だなと流衣はこっそり考えた。

「アルモニカ嬢のおっしゃる通りです、坊ちゃん。さあ、行きましょう。せっかく王都まで戻って参りましたのに、ここで目立っては拙いですから。セト殿、休める場所に適当に案内して下さい」

 流衣を背負いながら、オルクスがセトに命令する。頼むような話し方だが、どう聞いても命令だ。

 流衣はセトに申し訳なくなったが、セトはセトでそれどころではないようだった。慌てた様子で灰色のマントのフードを被る。

「王都なら先にそう言ってくれ。今の杖連盟の地位は危ういのだ。一年前の事件以来、ネルソフが幅を利かせているからな」

「そうですわ、オルクス様。この場所は敵の本拠地みたいなものではありませんか。ルイ様、失礼しますわね」

 サーシャが一言断って、流衣の頭にマントのフードを被せる。アルモニカもフードを被り、顔を隠す。

「では行こう。確かあちらに宿があったはずだ。この後のことはそこで考えよう」

 灰色のマントを翻して歩き出すセト。全員、一つ頷いて、セトの後に続いた。



「特に誰かに尾けられている様子はない」

 カーテンの陰から外を眺めていたリドが言い、カーテンを閉めた。部屋は一気に薄暗くなったが、セトの灯した魔法の光があるので困らない。

「それは良かった。何か問題あれば言いなさい。わてが力を貸します」

 オウムの姿に戻ったオルクスはリドに言うと、体の向きを変え、流衣の枕元にちょこんと座る。

(可愛い……)

 ベッドに寝た姿勢のまま、流衣は頬を緩める。オルクスが座るとまるっとしていて、とても可愛らしいので和むのだ。緊迫した状況だから、のんきにしている場合ではないのだが。

 そこへ、セトが部屋へと戻ってきた。

「周りは特に問題無い」

 扉を閉めて鍵をかけると、セトは目深に被った灰色のフードを下ろす。そして、ずれた眼鏡を指先で押し上げた。リドが右手をひらりと上げて返す。

「こっちも問題無しだ」

 セトは頷き、テーブルの方へ近付き、椅子に腰かける。サーシャがすかさず茶を淹れて出した。

「良かったのう、ルイ。ゆっくり休める」

 さっきまで緊張した顔でいたアルモニカはほっと息を吐き、嬉しそうに言って、流衣を覗き込んだ。水を飲むかと問うアルモニカの手には、水の入ったグラスがある。

「ありがとう、アル。でも飲む気しないからいいや」

「そうか、分かった。ここに置いておくから、いつでも飲むと良い」

 アルモニカは気遣うように言うと、窓辺にいたリドと共に、衝立の向こうに引っ込んだ。流衣を静かに寝かせてくれるようだ。

 すぐに移動するかもしれない事態に備え、流衣達は珍しく男女で大部屋を取っていた。皆がテーブルに集まって、小声で予定を話し始める。

(元気だったら僕も参加したんだけどなあ……)

 申し訳なく思い、流衣が会話に耳を澄ませていると、オルクスが言う。

「無事にここまで逃げおおせたのは、坊ちゃんの魔力のお陰です。一番働いたのですから、休むのは当然ですよ。どうぞお気遣いなく、お休み下さい。何かありましたら起こしますから」

「ありがとう、オルクス……」

 そう言われると、それで良いような気がして気持ちが軽くなる。

 流衣は目を閉じる。体の中で、波がぐらぐらと揺れているような感覚がして気持ちが悪いが、やがてそれは眠気に変わり、すとんと眠りに落ちた。


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