残酷な現実
信じられなかった。
信じられるわけがなかった。
家が燃えて、お父様とお母様が血を流して倒れている。
炎は残酷なまでに容赦なく家を燃やし煙がもうもうと立ち込めている、二人の腹部から血が止めどなく流れてピクリとも動かない。逃げなきゃいけない、逃げなきゃ焼け死んでしまう。なのに、わかっているのに体がガクガクと震えて動くことができない。
僕はこのまま死ぬのかな、と思ったら目から涙があふれてきた。
「ひぐっ、えっぐ…」
僕が泣いていると、突然、ばんっ、と勢いよく扉が開き、サキさんが入ってきた。
炎の中を走ってきたのだろうか、服が所々煤で汚れていた。
サキさんは最初に血だまりに倒れているお父様とお母様に気づいて息を飲んだ。
そして震えて泣いている僕に気づいて、
「……っ、お嬢様」
と言って、僕をギュッと抱き締めてくれた。
サキさんは少しの間僕を抱きしめてくれた。そのあと僕を抱えて駆け出した。
僕は抱かれながらもお父様とお母様から目を離せなかった。
部屋の外は炎の海だった。
炎の魔手が、廊下に、壁に、天井にと手を伸ばし焼き尽くしている。
その中をサキさんはためらうことなく家の外に向かって走っている。
炎は僕たちにもその魔手を伸ばしてくるが、見えない壁でもあるかのように僕たちには届かない。
よく見ると僕たちと炎の間に薄い層があった。
それは明らかに魔法だった。
おそらく風属性の魔法で体の周りに層を作って炎から守っているのだろう。
でも驚くべきはその魔法の精度だった。
周りに層を作るということはどうしてもムラができてしまったりする。
でもこの空気の層にはムラがないのだ。
そして強度。
炎の中を走っているが一度も炎が空気の層を破って僕たちの体を焼くことはなかった。
僕がそんなことを考えているうちに、家の外に出ていた。
家の外に出ると待っていたのか、アルトが僕の胸に飛び込んできた。
アルトは3年前に森で拾った竜の子供だ。
「お嬢様怪我はないですか?」
「……うん、サキさんが守ってくれたから」
服は多少煤けていたが怪我はどこにもなかった。
家を見ると大きな屋敷が炎に包まれていた。
僕がさっきまでいた部屋も完全に炎が回って火の海と化しているだろう。
今頃あの部屋で死んでしまったお父様とお母様も燃えてしまっているだろう。
そう考えるとまた涙があふれてきた。
「おとうさまぁ…おかあさまぁ…」
二人のことを思うと涙が止まらない。
昨日まであんなに幸せだったのに、ずっと同じ毎日が続くと思ったのに、現実はあまりにも残酷だった。
泣いてる僕をサキさんは優しく抱きしめてくれた。
「うわあぁぁぁん……」
僕は涙が枯れるまでサキさんに抱きしめられて泣き続けた。