戦い、恐怖
それは言葉にならないほどに、神秘的で幻想的な光景だった。息をするのを忘れ、それに見入るであろうほどに。
ため息などでない、息を呑むことなどない。意識を、魂を持っていかれるような不思議な感覚。ただただ見入らされる。
それはそれほどまでに美しい。
そしてそれは、静かに輝き鳴動する。
夜の森は魔獣の時間だ。迷い込んだら最後、帰る道を見失い骨まで魔獣に貪り食われる。
さらに魔獣だけでなく、夜盗に身包みを剥がされたりもする。
そんな危険な夜の森で小さな爆発音と、一瞬の閃光が煌めく。
それは一度だけでなく、二度三度と連続して起こった。
「あんらぁ、なかなかやるじゃなぁい。だ・け・ど」
男は小馬鹿にしたように、ちっちっちっ、と指を振る。
「そんなんじゃまだまだ私の美しいお肌に煤ひとつつけられないわよぅ?」
「話し方は気持ち悪いけど、この人強い・・・!」
クーリアは悪態をつきながらも、攻撃を続ける。
「んっふっふっふ、私の美しさに嫉妬しているのね。でも仕方がないわ、あなたもとってもかわいらしいけど、私が美しすぎるだけなの。だから気にしすぎちゃだめよ?」
しかし男はクーリアの攻撃を余裕でかわしながらふざけた言動をやめない。それがまたクーリアの神経を逆なでする。
「話し方が気持ち悪いだけじゃなくて、言ってることもわかんないよ! ああ、もう! 避けないであたってよ!!」
斬って、突いて、蹴り、当身、さらに連撃の合間に魔法も放つ。普通ならば一刻とて避け避け続けるのは難しいだろう。半端なものならば一瞬でぼろ雑巾のようになるのは明らかな猛撃。しかし男にはそのどれもが当たるどころか掠りすらしない。最初は牽制程度の威力だった魔法も、避けられ続け無意識に威力が上がっていた。何の魔法対策もせず今の魔法に当たったら、文字通り消し炭になるだろう。
「いいわぁ、いいわよぉ。で~も、まだまだノンノンよ。殺意が足りないわぁ、殺意が。もっと殺す気でこないとだめよ。そんなんじゃ大事な、だ~いじなお友達を助けることなんて・・・できっこないわねぇ」
男はちらりと、木の根元で気を失っている子竜を見る。
「頑張らないとお友達、殺しちゃうわよ?」
殺気、ただ殺意だけで足が、体が震える。
「(怖い、なんなのこれ・・・)」
直接向けられていないとはいえ、殺気はクーリアに重圧となって襲う。その殺気という重圧と恐怖に崩れ落ちそうになる。
「あら? 怖がらせちゃったかしら。うふふそのおびえている表情も、可愛いわねぇ」
男がそう言うと、クーリアを襲っていた重圧と恐怖がなくなる。
「さぁ、これで怖くなくなったでしょ? じゃあ2回戦の始まりね」