初めての村
暖かな陽光があたりを照らし、草木が嬉しそうに光を浴びてその枝葉を伸ばしていた。
その陽光を遮る雲はなく快晴の一言に尽きた。
一瞬脳裏にあの凄惨な光景が浮かぶ。
「すぅ……はぁ……」
僕は胸一杯に新鮮な空気を吸い込み深呼吸して、そのイメージを追い出す。
あの日のことは忘れられない。
でもあの日のことでもう立ち止まりたくはなかった。
なによりもくよくよ悩んで何も楽しくない!
それに今日はサキさんに内緒で近くの村に遊びに来てるのだ。
僕とサキさんが今住んでるのは、山の中の隠れた家だ。
誰も来なくて、何もないところ。
遊ぶものも何もなくてつまらないのだ。
だけど、近くに村があるみたいだった。
村になんて行ったことないからどきどきしてわくわくだ。
しばらく山を降りていくと、聞いてたとおり村があった。
そこまで大きい村ではない。
自給自足しているのか、畑がいたるところにある。
畑にはくわを持って仕事している人を見かける。
すごく平和な風景だ。
これを見ていると、あの時のことが夢か幻のように思ってしまうほどに。
そんなことを考えながら、村の中をあるっていると広場のような場所に出た。
広場には、僕と同じくらいの子供たちがいた。
えーと、1、2…5人くらいで丸い何かを蹴って遊んでいた。
なんだろう。
すごく気になる。
よし、聞いてみよう。
「ぁ、あの……な、なにしてるの…?」
子供たちは聞こえてないのか、僕にだれも気づかないで遊んでいる。
「あの!」
くじけずにもう一度声をかける。
でもやっぱり子供たちは僕に気付かない。
「……」
僕がしょぼーんってなって、少し涙目でしゃがんで土をいじっていると、
「ん? お前誰だ? 初めて見る顔だな」
やんちゃそうな子供が気づいて話しかけてきた。
「えっと、あの、僕クーリア。君は?」
「俺はウートだ。お前どこから来たんだ?」
「あの山の向こう」
僕はさっき来た方向を指差した。
「山の向こう!? お前山の向こうから来たのか!!?」
「うん、そうだよ。なんで?」
「最近山には魔物が出るって村の大人が言ってたぞ」
ウートと話していると、ほかの子供たちも集まってきた。
「どうしたのウー君、それとこの子だれぇ?」
一番のんびりそうな女の子が、ゆっくりとした口調でウートに聞いた。
「なんかそこにいた」
そっけなく答えるウート。
それはいつものことなのか、何も不満を言うことなく、そうなんだぁ、と返している。
「それで、魔物って?」
「山に入った大人が、見たんだって。霧がすごくてよくは見えなかったみたいだけど。だから山に入っちゃ行けないって行ってたぞ」
「そ、そうなの…?」
ど、どうやって帰ろう。
魔物にあったら怖いし……
「でも霧が出てなきゃ、魔物は出ないんだってさ」
「そ、そうなんだ……じゃあ、今日はもう、か、帰ろうかな」
僕は、ちょっと震えながらそういった。
「今度来たら、一緒に遊んでね!」
「おう、いいぜ!」
僕がそういうと、ウートや他の子たちが口々にそういってくれた。
「じゃあ、またね」
僕はうれしくなりながら、走って家に帰った。
魔物に会わないように祈りながら。