ココロの絆
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今日もクーリアさんは部屋から出てこなかった。
お屋敷があのようなことになって、今日で3日目。
ご飯は食べてくれているようですが、クーリアさんが私の前に姿を見せてくれない。
よほどショックだったのでしょう。
あの活発だったクーリアさんがここまでふさぎ込んで姿も見せてくれないのは。
「……はぁ」
知らず私はため息をこぼしていた。
「……いけないいけない」
私がため息なんてついてちゃだめだ。
私は笑っていなくちゃ。
クーリアさんにまた笑ってもらうために。
「よしっ」
私は自分の頬をぱしんとたたいて、家事の続きをはじめた。
いつクーリアさんが部屋から出てきてもいいように。
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僕の前にあるのはなんの変哲もない扉。
普通にどこにでもあるような扉だ。
それなのに、なぜか僕には大きく重々しく見える。
実際は屋敷に合った扉のほうが、大きかったし重々しかったはずだ。
それなのに僕は何の変哲もないどこにでもある普通の扉の前でただ立っているだけだ。
何度ドアノブに手を伸ばしたことだろう。
しかしその手は一度もドアノブに触ることなく、引っ込められていた。
外に出なきゃと思う。
そしてサキさんに会いたい。
それと同じくらい、現実を見るのが怖い。
僕はもう一人なんだと。
お父様もお母様も、もういないんだと。
理解するのが怖い。
お父様もお母様も死んでなんかいない。
あれは夢でまだ夢の中なんだ。
そう現実から目をそらして、ただの妄想にしがみついて。
なんて、情けないくて醜いんだろう。
それでも今はその妄想にしがみつくしかなくて。
そうしないと自分が壊れそうで。
僕にだってそれがだめなことなんだってわかる。
前を向いて、進まなきゃいけないってわかってる。
お父様もお母様もそう望んでるなんて、言われなくてもわかってる!
わかってる……わかってるけど、僕はまだそれを受け入れられるほど強くない。
「ひっく……ひぅ、くっ…」
知らず僕は泣いていた。
自分が泣いていると気づいたら足に力が入らなくて立っていられなくなった。
これじゃまるで小さな小さな子供みたいだ。
わかっていても涙はとめどなく溢れてくる。
不安に押しつぶされそうで。
僕の胸を不安がぎゅっと締め付ける。
自分がどうしたいのか、どうすればいいのかわからない。
涙はぜんぜん止まってくれない。
とたとた、と足音が聞こえた。
「クーリアさん…泣いているんですか?」
「サキさん…僕…どうすればいいかわからないよ…。お父様も、ひぅ…お母様も死んじゃって……エアルもどこにいるかわからなくって……僕、僕一人になっちゃった……」
そういって僕はまた子供みたいに泣いた。
するとサキさんは、
「クーリアさん、私がいます。私じゃお父様やお母様の代わりになれないかもしれません。でもクーリアさんのそばにずっといます。だから……だから泣かないでください。クーリアさん」
やさしく僕に語りかけてくれた。
うれしかった。
一人ボッチになったと思ったのに、そういってくれたサキさんの言葉は僕の胸にしみ渡った。
次の瞬間、僕は扉を開けてサキさんに抱きついていた。
私の前に立ちはだかっていた扉はいとも簡単に開いた。
あれほど強固だったココロの壁はもろく崩れ去った。
もう不安に押しつぶされそうにはならなかった。
うれしさがこみ上げ、僕はサキさんの腕の中で泣き続けた。
サキさんはそんな僕の頭を静かに撫でてくれていた。