心に開いた孔
心にぽっかりと穴が開いたようだった。
何もする気が起きなくて、何も考えられなかった。
だから無気力に眠る。
でも目を閉じるとあのときの光景がすっと浮かんでしまう。
においも、感触も、熱さもまるで今そこにあるかのように。
怖くて怖くて仕方がない。
今もあの炎が自分を焼こうとその手を伸ばしている。
逃げても逃げてもその手は追ってきて、きっと自分を捕まえてしまうだろう。
その手につかまる瞬間に、ベッドの上で跳ね起きる。
汗をびっしょりと掻いて今日も夢だったとほっと胸をなでおろす。
僕がこんなに、夢に怯えて、世界に絶望しても、世界は変わらずに日々を刻み続ける。
そして今日もあの日と変わらない朝が続いている。
それが信じられなくて、信じたくなくて。
胸が苦しくて、締め付けられるようで泣きそうになる。
「お父様、お母様……」
呼んでも来てくれるわけないことは知っているのに、それでも二人に会いたくて。
コンコン、と控えめなノックがした。
「クーリアさん…起きてますか?」
「……」
僕はサキさんに返事ができなかった。
返事をする気力もなくて、ただうつむいてあの日のことを思い出すだけ。
「クーリアさん… 朝ごはんお部屋の前においておくので食べてくださいね」
サキさんは悲しそうな、さびしそうな声でそういって離れていった。
それすら僕は反応できなかった。
僕は最悪だと思う。
サキさんに心配をかけて、気遣ってもらってるのに返事もしなくて。
そう思っていてもやっぱり体は動かなくて。
心が重くて、それなのに心に大きな大きな孔が開いていて。
もうどうすればいいのかわからない。
だからベッドの上で足を抱えて、この苦しみがなくなるのを待ってることしかできない。
ぎゅっと目を閉じて、足を抱えている腕に力をこめる。
そうすれば苦しみも悲しさも全部どこかにいくと信じているように。
ぐ~っとお腹がなって目を覚ました。
どうやら寝ていたようだ、どのくらい眠っていたんだろう。
お腹が減って起きるなんてなんて間抜けなんだろう、と少し恥ずかしく思う。
そういえばサキさんが朝ドアの前にご飯をおいてくれていった気がする。
気分は暗く沈んだままだけど、お腹が減って仕方がないから、ご飯を食べることにした。
ドアを開けるとご飯はすぐに見つかった。
湯気を出して見えやすい場所においてあった。
僕がどのくらい寝ていたのかわからないけど、湯気が出るほど暖かいのはきっとサキさんが僕がいつ食べても暖かいように暖めなおしてくれていたのだろう。
「………っ」
そう気づいたら涙ができてきた。
サキさんの優しさがすごくうれしかった。
大きく開いた暗い孔が少し埋まった気がした。