第5話 踏み入れた世界
輪廻がスピカとやり取りして5分。頃合いかとメールボックスを開けば、件名に『スピカです』と書き込んであるメールを見つける。何件か同じ件名があり、パスを手に入れようと偽っている様だ。
「ホント、馬鹿ばっかり。仕方ないなぁ〜。」
普段は中身を見ずにごみ箱行きだが、仕方無しに確認することにする。そして次々にメールを開き、ウダウダと嘘臭い内容の文章を綴っているメールを破棄していく。心底面倒臭そうに単純作業を繰り返し、輪廻はとうとう当たりを引く。しかし、それと同時に顔が引き攣る。当たりと思ったのは、直感。ただ一言「話を聞いて下さい」とメアドを記入してある簡単なメール。
「このメアドさぁ……。」
携帯の電話帳を開き『大野昴』にカーソルを合わせ、開く。電話番号、携帯のメアド、その後に登録されているPC用のフリーメールアドレス。メールに書かれたアドレスと照らし合わせると、一字と違わず合致した。
「まさかとは思ったけど、マジかよ……。なんで昴……?」
溜息と共に、のけ反る様に天井を見上げる。しばらく考えて、キーボードをゆっくりと叩きだす。メールを打ち終え送信する。もちろん、昴にはわからないように教えてあるのとは別のメアドから。
《遠慮せずに、いつでも遊びに来て下さいね♪
『God only knows』
これがパスになります。色々とお話出来る事を楽しみにしてます。》
驚きはしたが、既に輪廻の顔はとても楽しそうな顔に変わっていた。相手は自分を知らないのに、自分は知っているその優越感。これからの日常が楽しみで、ニヤニヤと笑いが止まらない。急いでチャットルームに足を運ぶ。
刹那さんが入室されました
スピカ 「お邪魔してます。よろしくお願いします。」
刹那 『いらっしゃい!早速来てくれて嬉しいです!!』
スピカ 「あの、ここのサイトの目的は何なんですか?」
刹那 『目的は、無心論者が自由に話し合えればいいな。と思って作ったんですよ。まだ出来て日も浅いから同志は少ないですが。ここに来てるのは、私とスピカさんともう一人、『影さん』って方です。そのうち来ると思いますよ。』
スピカ 「俺、神様を信じてますよ?何で誘ってくれたんですか?」
刹那 『中途半端に、でしょ?さっきの話、詳しく教えてくれませんか?』
スピカ 「妹が病気なんです。あと2年、生きるのがやっとっていう難病。治療法は心臓移植。でもドナーが見つからなくて……。」
刹那 『たしか心臓移植って日本では難しいですよね?』
スピカ 「はい。それに金額的にも……。」
刹那 『お金はどうにでもなります。あとはドナーか……。順番待ちしてるんですよね?あとどれくらいですか?』
スピカ 「もう少しなんです。条件が合えば、ですけど。」
刹那 『じゃあ、お金貯めましょ?』
スピカ 「そんなに簡単に貯まる額じゃない。」
刹那 『簡単ですよ。ここは神を信じて止まない国ですよ?』
スピカ 「は?」
刹那 『いいから、いいから♪任せてくださいって。』
スピカ 「あ、ごめんなさい!ちょっと呼ばれたんで、一回落ちます。また後で来てもいいですか?」
刹那 『はいはい。もちろんですよ。待ってまーすノシノシ』
スピカさんが退室されました
影さんが入室されました。
影 【ちわ~っす!】
刹那 『こんにちわ~』
影 【あれ?新人さん?】
刹那 『そうそう。丁度、入れ替わりで落ちちゃったんだよね。』
影 【ちょっとログ読んでくる。】
刹那 『あい~。』
~シークレットモード~
影 【ただいまっと。今から引き込むパターン?】
刹那 『そう。でね、お金集めようと思うんだけど。その方が手っ取り早いでしょ?』
影 【だね!刹那ちんはサイト作ってよ、とびっきり人の目を引くやつね。あとの作業は僕に任せて!世界中に発信するよー!】
刹那 『影は本当に頼りになるネ!色々情報もくれるし、心強いよ。』
影 【いえいえ~♪刹那ちんも十分凄いよ~!】
刹那 『ありがと。んじゃ、一回落ちて作成してくるわ。影はずっとINしてる?』
影 【してるよ~。】
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刹那 『私もあとでまた来るね。スピカさんも来るって言ってたから紹介するよ。私より先に来ちゃったらお話して待っててね。』
影 【あいさ。まってるよ~ん。】
刹那 『んじゃね~ノシノシ』
刹那さんが退室されました。
輪廻は昴の話を思い出し考え込む。昴に妹がいる事は知っていた。でも、難病を患っているなんて聞いた事もない。ましてや昴はそんな態度を微塵も出してはいない。
「知らなかったなぁ……。あいつも案外、感情隠すの上手いのな。」
輪廻は特に同情する事も無く、再びサイトの作成にかかる。神を信じる人間達の偽善心を擽る為の募金サイト。輪廻は一度、影に教えてもらって同じようなサイトを作成し、成功している。特に使用目的は無く適当に喰いつきそうな名目にしたが、それでも面白いぐらいに募金が集まった。集まった募金は3分の2は盲導犬協会に寄付し、残りは軍資金として頂いた。
「今回はお涙頂戴系で攻めるか。」
特に悩む事も無くサクサクとサイトを製作する。輪廻は人の心を掴むのに長けていて、それを生かして言葉巧みに募金したくなる様なサイトに仕上げていく。ものの1時間程度で作り終わり、余裕の顔で夕飯のカップ麺をキッチンで作って持ってきた。
「さ~てと。あとは影に任せるとするか。」
そう言って、『神のいない世界』に再びINした。