表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

あの日

作者: 梨音

 ワーオ、キラキラシテイル、

 夜でした。マユとわたしは海辺に来ていました。寄せる波、返す波、ざあーっ、ざあーっ。静かな空間にそんな音だけが響く中で、マユは機械的な、妙に甲高い声でそう言いました。横を見ると、ぐるぐると目まぐるしく瞳が動いています。星を見ているのだと、わたしは気が付きました。底なしに深い闇の中で輝くそれ。マユは星を知らないのでした。

 あれは、星っていうのよ、とわたしは言いました。ホ、シ。そう、星。ひとは死ぬとあれになると言われているの。シ、ヌ?

 マユは死も知らないのです。わたしは砂浜に座って右手に少しばかり砂を掴みました。マユの目はわたしの行動を分析し、ぎくしゃくした動きでそれを真似ます。わたしが手を弛めると、細かな砂がさらさらと線になって零れ落ちました。マユが手を開きます。ごそり、と一気に落ちる砂。顔を歪めるマユに、そういうこと、とわたしは言いました。ソウユー、コト? そう、そういうこと。ひとに命が無くなること、ひとがものになっちゃうこと。こんなふうに。砂を掴んで、落として、掴んで、落として。コンナ、フーニ。繰り返しながらマユはわたしを真似ました。零れる砂。それを見ながらマユはしばらく新しい情報を分析しているようでしたが、やがてぽつりと、アカルモ、モノニナリマスカ、と訊きました。なるよ。アカルハ、シヌデスカ。うん、いつか。アカル、シヌ、ホシニナル。アカル、シヌ、モノニナル。ドッチ、ホントー、デスカ。え。わたしが黙り込むと、マユはこちらを振り向いて首を傾げました。淡く月明かりに照らされた輪郭。そうだね、どっちなんだろうね。困惑したように、首の傾き具合が大きくなります。それを見てわたしは続けました。星になると思えば星になるし、ものになると思えばそうなるんじゃない。そんなものよ、ひとの死って、たぶん。タブン、デスカ。そう言ってマユはまたしばし沈黙し、それから思い出したようにヒト、ホシニ、ナリマス。そう、どうして。アカル、ホシ、ナッテホシー、ダカラ。わたしは微笑みありがとうと言いました。そして立ち上がりました。もう帰ろうよ、風邪引くよ、と。ロボット、カゼ、ヒカナイデス。もう、屁理屈言わないで。ヘ、リクツ、ユワナイデス。まったく、そんなこと誰が教えたの? ハカセ! マユはそう叫ぶとキャッキャと声をあげました。どうやらいつの間にか、笑うことを覚えていたようでした。わたしもつい、つられて笑ってしまいました。


 ――アカル、ホシ、ナッテホシー、ダカラ。


 心の中でマユの声が響いて、わたしは再び、そっとありがとうを言いました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ