あの日
ワーオ、キラキラシテイル、
夜でした。マユとわたしは海辺に来ていました。寄せる波、返す波、ざあーっ、ざあーっ。静かな空間にそんな音だけが響く中で、マユは機械的な、妙に甲高い声でそう言いました。横を見ると、ぐるぐると目まぐるしく瞳が動いています。星を見ているのだと、わたしは気が付きました。底なしに深い闇の中で輝くそれ。マユは星を知らないのでした。
あれは、星っていうのよ、とわたしは言いました。ホ、シ。そう、星。ひとは死ぬとあれになると言われているの。シ、ヌ?
マユは死も知らないのです。わたしは砂浜に座って右手に少しばかり砂を掴みました。マユの目はわたしの行動を分析し、ぎくしゃくした動きでそれを真似ます。わたしが手を弛めると、細かな砂がさらさらと線になって零れ落ちました。マユが手を開きます。ごそり、と一気に落ちる砂。顔を歪めるマユに、そういうこと、とわたしは言いました。ソウユー、コト? そう、そういうこと。ひとに命が無くなること、ひとがものになっちゃうこと。こんなふうに。砂を掴んで、落として、掴んで、落として。コンナ、フーニ。繰り返しながらマユはわたしを真似ました。零れる砂。それを見ながらマユはしばらく新しい情報を分析しているようでしたが、やがてぽつりと、アカルモ、モノニナリマスカ、と訊きました。なるよ。アカルハ、シヌデスカ。うん、いつか。アカル、シヌ、ホシニナル。アカル、シヌ、モノニナル。ドッチ、ホントー、デスカ。え。わたしが黙り込むと、マユはこちらを振り向いて首を傾げました。淡く月明かりに照らされた輪郭。そうだね、どっちなんだろうね。困惑したように、首の傾き具合が大きくなります。それを見てわたしは続けました。星になると思えば星になるし、ものになると思えばそうなるんじゃない。そんなものよ、ひとの死って、たぶん。タブン、デスカ。そう言ってマユはまたしばし沈黙し、それから思い出したようにヒト、ホシニ、ナリマス。そう、どうして。アカル、ホシ、ナッテホシー、ダカラ。わたしは微笑みありがとうと言いました。そして立ち上がりました。もう帰ろうよ、風邪引くよ、と。ロボット、カゼ、ヒカナイデス。もう、屁理屈言わないで。ヘ、リクツ、ユワナイデス。まったく、そんなこと誰が教えたの? ハカセ! マユはそう叫ぶとキャッキャと声をあげました。どうやらいつの間にか、笑うことを覚えていたようでした。わたしもつい、つられて笑ってしまいました。
――アカル、ホシ、ナッテホシー、ダカラ。
心の中でマユの声が響いて、わたしは再び、そっとありがとうを言いました。