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テセウスの船はもう見えない  作者: 御守いちる


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9-1



それから数日が過ぎ、千紗は退院できることになった。

アリサが消えたことは、僕と千紗しか知らない。

天国が本当にあるのかどうかなんて、分からない。

ただ、どうかアリサが幸せであればいいと思った。

彼女を選べなかった僕には、そう祈ることしかできなかった。


僕と千紗の日々は、穏やかに過ぎていった。


やがて九月になった頃、ある事件が起こる。


「シャルがいなくなった」


千紗は真っ青な顔をして、僕に訴えた。

「え? どうして?」

千紗は動揺した様子で続ける。


「いつもは、窓を開けていても、シャルは家から勝手に出て行ったりしないの。でも、今日はなんだか、ずっと空を見上げていて……。リビングの窓が、少し開いていて。気が付いたら、いなくなってた。こんなこと、シャルを飼い始めてから、初めて。……どうしよう、シャルに何かあったら。事故とか……どうしたらいいの……⁉」


僕は弱り切っている千紗の身体を支え、励ました。

「大丈夫だ、すぐに見つかるよ。一緒に探そう」

千紗は泣きそうな表情で頷く。


それから僕も千紗も、おじさんもおばさんも、シャルのことを必死に探した。

保健所や警察にも連絡したが、シャルのような猫はいないらしい。

近くの家や店に張り紙をさせてもらったり、近所の人に話を聞いたり、できる限りのことはした。

だが、何日経っても結局シャルが見つかることがなかった。



千紗は自分の部屋で、気落ちした様子で項垂れる。

「シャル……。どこに行っちゃったんだろう」


千紗は家の近くで灰色の毛並みの野良猫を見る度に、ハッとした様子で確認するが、やはりシャルではなかった。


僕は声には出さずに考える。

猫は死に際、姿を見せないなんて言うけれど。

シャルはいなくなる間際、アリサの部屋で、穏やかな表情で横たわっていることが多かった。

ご飯もあまり食べなくなって、最近では活発に動くこともなかったらしい。

もしかしたら、自分の死期を悟っていたのではないだろうか。


僕は千紗に笑いかける。


「……もしかしたらシャルは、アリサを探しに行ったのかもしれない。ほら、猫って、人間には見えないものが見えたりするだろ? たまに、何もないところをじっと見てたりするじゃないか。だから……」

目を閉じると、愛おしそうにシャルを撫でるアリサと、嬉しそうに喉を鳴らすシャルの姿が見えたような気がした。


千紗は寂しげに微笑んで、頷いた。


「そうだったらいい」



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