8-5
僕はハッとして、目を見開く。
一瞬、自分がどこにいるのか分からなかった。
目を開くと、屋上も、光も、アリサの姿もなかった。
僕は、病室の前にいた。
千紗の眠っているベッドが、ガラス越しに見える。
入ってはいけないはずだけど、僕はかまわず中に入った。
横たわっていた千紗の目蓋が、ピクリと動く。
それから彼女の瞳から、涙が伝っていく。
「千紗……」
ゆっくりと、千紗の瞳が開いた。
「景」
僕たちは、もう視線が重なるだけで、何が起きたのかを完全に理解していた。
彼女は震える唇で、僕に告げた。
「……アリサが、消えた」
千紗は堪えきれなくなったように、しゃくりあげながらもう一度呟いた。
「私を残して……、アリサが、消えた」
そう言った千紗は、我慢できなくなったようだ。
声をあげて泣き叫んだ。
僕は彼女をきつく抱きしめる。
もう、二人とも分かっていた。
僕は千紗を選んだ。
だから千紗の魂は、帰って来た。
アリサの身体をこの世界に残したまま。
その代わりに、アリサの魂は消えてしまった。
全部、理解していた。
――もう二度と、僕たちはアリサに会えない。
「私、アリサと今までずっと一緒だったのに! 話せなくても、隣にいたのに。生まれてからずっと、一緒だったのに! 私のせいで……アリサが……っ」
僕は何も言えなかった。
ただただ、泣いている千紗を抱きしめることしかできなかった。




