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テセウスの船はもう見えない  作者: 御守いちる


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15/23

4-5



千紗を家に送ったあと、僕はベッドでうとうとして、眠ってしまった。

そして夢を見ながら、あぁ、これは夢だな、と分かる夢を見た。


真っ白でほんのりと明るい、何もない空間にいた。

気が付くと、少し離れた場所に、華奢な少女が立っている。


「アリサ!」


一目で彼女がアリサだと分かった。こちらに振り向いたアリサは、悲しげな表情で微笑む。


「久しぶりだね、景君」


ずいぶんアリサに会っていないような気がした。

僕は必死にアリサをつかまえようとしたが、彼女はやんわりと僕が触れるのを拒んだ。


「千紗と話せなかったから、景君のところに遊びにきちゃった」

にこりと笑った後、アリサは続けた。

「景君。千紗は、自分が消えるべきって言ってたでしょう?」

「うん。そのうちアリサに身体を返さないといけないからって」

「あのね、景君。千紗が必ずしも消える必要はないの」

「本当!?」

「うん。だけど、身体は一つしかない。だから、景君が選んで」

「選ぶって……」


アリサは僕の手を握り、笑顔で言った。


「私か千紗、どちらか選んでくれたら、きっとその魂が、この身体で生き続けることができる」


「そんなの、選べるわけないだろ! それ、つまり千紗かアリサか、結局どちらかは消えてしまうってことだろ!?」


「そうだね」

「そんな、どうにかならないのか!? 二人とも助かる方法はないのか!? 今だって、アリサの身体に二人の魂が入ってるんだろ!? だから、ずっと……二人で……」


それ以上、何と言っていいのか分からなかった。


「あんまり時間がないって、分かるんだ。景君、私は景君が、どちらを選んでもいいって思ってるからね。景君が私と千紗、どっちも死ぬほど大好きなことくらい、お姉ちゃんは分かってるんだから」

アリサがそう茶化すように言った声が優しすぎて、泣き出したくなる。


「だから景君が、ずっと一緒にいたいと思う方を選んで」



アリサの名前を呼ぼうとした瞬間、僕は目を覚ました。


伸ばした手の平は、何も掴めない。

気が付いたら、瞳に涙が滲んでいた。


二人のことを考えていたから、こんな夢を見たんだろうか?


僕は両腕で、自分の顔を覆った。

「選べるわけ、ないだろ……」 


叫び出したい気持ちだった。

神様がいたら、目の前で文句を言ってやりたかった。


――夢の中くらい、すべてがうまくいってくれたっていいのに。



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