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ケンカした翌日の朝、僕は千紗と一緒に登校しようと決意した。
スマホでメッセージを送る勇気さえ出せず、千紗の家の前で彼女を待っていた。チラリと腕時計を確認する。
まだ呼び鈴を押すのは早いだろうか。そもそも、話もしてもらえなかったらどうしよう。
迷っていると、アリサの部屋のカーテンが開いた。
そこから、千紗がじっとこちらを見下ろしていた。目が合い、僕は一瞬うろたえる。
千紗はすぐに姿を消してしまった。
やはり怒っているのだろうか。そわそわしながらどうしようかとその場で立ち尽くしていると、すぐに玄関から千紗が現れた。
「おはよう、景」
「おはよう、千紗」
いつも通りだ。千紗の表情からは、彼女がどう考えているのか、判断がつかない。
でも、あからさまに怒っている感じではない。
よし、うやむやになる前に、きちんと謝ってしまおう。
そう決意した途端、千紗が口を開いた。
「景、あの、昨日のことだけど。……怒らせてしまって、ごめんなさい」
そう言って、千紗が頭を下げる。
自分から謝罪しようと思っていた僕の肩から、ふにゃふにゃと力が抜ける。
「謝らないでよ、千紗。僕は……怒ったんじゃないんだ。多分、悲しかったんだ。それも、千紗にじゃなくて。えっと……何もできない自分が悲しかった。悲しいっていうか……、なんだろ」
「無力感?」
「そう、そんな感じ。八つ当たりしてしまって、ごめん」
たどたどしく伝えると、千紗は顔を上げふっと微笑む。
「景、あなたは何もできなくなんてない。あなたが私とアリサのために頑張ってくれているのは、じゅうぶん伝わって来る。私はそれが、とても嬉しい。私の心は、それだけで満たされる」
心臓が、ぎゅっと締め付けられる。
僕は千紗のこういう所が好きなのだと思った。不器用すぎるくらい、千紗はいつだって誠実だ。
「ごめん、面倒くさいことばかり言って」
「景が面倒くさいのには慣れている」
「そうだね」
「それに、頑固なのは私も一緒」
その言葉に、僕も小さく笑った。
「じゃあ、仲直りだね」
そう言って僕は手を差し出した。
千紗は目をパチパチと瞬かせ、それから僕の手を握り返す。
「……うん、これで仲直り」
久しぶりに、千紗と手を繋いだ。それにケンカをしたのも、仲直りも久しぶりだ。
「でも僕は、最後まで諦めないから」
「分かった。ありがとう」
僕たちはしばらく手を繋いだまま、高校への道を歩いた。




