第3話: 法は、仮想にも及ぶ
フルダイブMMRが社会インフラになって十年。
法律も整備された。
罰則もできた。
——でも。
守る気のないやつは、どこにでもいる。
⸻
昼過ぎ。
「おい出てこいよ!」
宿屋の前が騒がしい。
俺はほうきを持ったまま外を見る。
昨日警告を食らったプレイヤー——Riot_Zero。
「未遂で警告とか意味わかんねーだろ!」
「NPCだぞ!? データだろ!?」
取り巻きが笑う。
「BAN怖くてゲームできるかよなー!」
その足元に、昨日助けた少女NPCが立っていた。
小さな花束を持っている。
「お兄さん、これ——」
ぱしん。
花が叩き落とされる。
「触んなっつってんだろ」
花弁が散る。
近くにいた軽装の女性プレイヤーが飛び出す。
「やめなよ!」
「は? また正義マンかよ」
Riot_Zeroが少女の肩を掴む。
持ち上げる。
「や、やめ——」
振りかぶる。
⸻
世界が止まった。
音が消える。
光が薄れる。
俺の視界に白い文字列。
SECURITY
SCAN COMPLETE
対象:Riot_Zero
罪状:NPC個人キル(確定)
累積悪性値:基準超過
処分案:永久凍結
少女のHPはゼロ。
町被害なし。
個人キル。
修復対象外。
俺は小さく息を吐く。
「……確定か」
タップ。
⸻
時間が戻る。
【重大規約違反を確認】
【アカウント永久凍結】
【理由:NPC殺害(悪質)】
Riot_Zeroの身体が白く発光する。
「は?」
硬直。
視界いっぱいに赤文字。
PERMANENT BAN
「ちょ、待て! 未遂はセーフって——」
言い終わる前に、光になって消えた。
取り巻きが青ざめる。
「理由公開されてる!」
ウィンドウが全員に共有される。
NPC個人殺害 1件
警告後再犯
悪性傾向:極大
軽装の女性プレイヤーが、少女を抱きかかえる。
「……リポップしない」
静まり返る通り。
「え、なんで戻らないの?」
「町虐殺は戻るだろ?」
ざわつく声。
俺は掃除道具を持ったまま立っている。
ただの宿屋の息子。
ただのNPC。
だけど——
奥で、何かが確実に回っている。
⸻
その夜。
掲示板は大炎上。
【速報】警告食らったやつ即永久BANw
【未遂セーフじゃなかったの?】
【NPC個人キルだけ重くね?】
1:名無し
現実法リンク強化マジ?
18:名無し
判定早すぎ0.2秒て
42:名無し
人間判断じゃ無理だろ
77:名無し
これ運営じゃなくね?
91:名無し
なんか“怒ってる”感じしない?
133:名無し
町は修復されるのに個人は戻らんの謎
150:名無し
これさ
線引きされたんじゃね?
⸻
夜。
宿屋の窓から町を見下ろす。
花は片付けられている。
だが、少女は戻らない。
町は守る。
個人も守る。
だが——
奪った命は、戻さない。
それが線引き。
瞳の奥に、次の警告ログが流れる。
悪性値、上昇。
清掃は、続く。
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