第2話: 良心派プレイヤー
翌日。
町はいつも通り賑わっていた。
昨日の虐殺も。
修復も。
永久BANも。
プレイヤーにとっては“ちょっとした事件”らしい。
「マジで永久BANだって」
「372件は草」
「ログ公開とか怖すぎ」
笑いながら歩いていく。
俺は宿屋の前を掃除している。
母さんはいない。
それだけが、消えない。
「……いらっしゃいませ」
ドアが開く。
入ってきたのは、軽装の女性プレイヤーだった。
高校生くらいに見える。
長い髪をポニーテールにして、シンプルな片手剣を背負っている。
装備は地味。でも使い込まれている。
派手さより、実用。
「一泊、お願いします」
明るい声。
でも、少しだけ疲れている。
「はい。一泊五百ゴールドです」
彼女は周囲を見回す。
「……ここ、昨日も営業してた?」
「はい」
少しだけ、ほっとした顔。
「よかった」
「何かありましたか?」
彼女は肩をすくめる。
「昨日、この辺で暴れてた人たちいたでしょ?」
「……」
「止めたんだけどさ。『どうせデータだろ』って笑われちゃって」
拳をぎゅっと握る。
「ゲームでもさ、やりすぎはダメでしょ」
まっすぐな目だった。
俺は視線を落とす。
「……そうですね」
彼女が身を乗り出す。
「ねぇ、昨日の永久BAN、知ってる?」
「さあ……」
「有名PK配信者。372人虐殺だって。正直さ」
少しだけ笑う。
「スカッとした」
胸が、わずかに揺れる。
“見ていた”のは俺だ。
でも俺は、ただのNPCだ。
そのとき。
外で怒鳴り声。
「ふざけんなよ!」
昨日の残党らしきプレイヤーたち。
「仲間がBANとかバグだろ!」
一人が通行中の少女NPCを突き飛ばす。
「きゃっ!」
「やめて!」
女性プレイヤーが飛び出す。
俺も外へ出る。
「運営の犬かよ!」
プレイヤーが剣を抜く。
NPCに向けて、振り上げる。
その瞬間――
世界が止まる。
音が消える。
視界に赤いウィンドウ。
【SECURITY SCAN】
【EVALUATE】
対象:Player ID “Riot_Zero”
NPC個人キル未遂:1件
悪性傾向:高
推奨処分:警告
未遂。
俺は、ボタンに触れない。
代わりに選ぶ。
【WARNING】
タップ。
時間が戻る。
プレイヤーの視界にだけ、赤い警告が表示される。
【警告:重大規約違反の可能性】
「な、なんだこれ!?」
剣が止まる。
身体が一瞬硬直。
少女NPCのHPは減らない。
プレイヤーは慌てて後退する。
「くそ、ログアウト!」
光に包まれて逃げる。
残りの連中も、顔を見合わせて去っていく。
通りは静かになる。
女性プレイヤーがNPCを抱き起こす。
「大丈夫?」
「はい、ありがとうございます!」
ほっと息を吐く。
そして、俺を見る。
「……今の、見た?」
「何がですか?」
「なんかさ、一瞬フリーズしたよね?」
俺は首をかしげる。
「気のせいでは?」
彼女はじっと俺の目を見る。
その奥に、わずかに残る赤い残光。
「……」
でも、何も言わない。
「まぁ、いいや」
小さく笑う。
掲示板では、新スレが立っていた。
【速報】未遂で警告出たんだがwww
【昨日のBAN以降、運営ガチ】
【あの町、なんかある】
俺は宿屋に戻る。
瞳の奥で、まだ赤い文字が瞬いている。
【管理権限:保持中】
【監視対象:増加】
母さんは戻らない。
だから。
俺は見続ける。
次は――警告で済まさない。
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