第6話 任期という宣言
評議室の空気は、いつもより重かった。
国境では依然としてセレスタ軍の演習が続き、通貨は持ち直しきらず、王都では王制不要論の議論が止まらない。
その中心で、私は立ち上がった。
「提案があります」
ざわめきが広がる。
アルヴェルトが静かに目を細める。レオンハルトは腕を組んだまま、何も言わない。
「再編王制に、王任期制を導入します」
一瞬、音が消えた。
「……任期?」
地方代表ユリウスが問い返す。
「はい。王の在位は十年を上限とする」
ざわめきが一斉に広がる。
「再任は?」
「原則一度のみ。評議の承認を必要とします」
アルヴェルトが口を開く。
「陛下、それは……」
「王は永遠ではありません」
私ははっきり言った。
「王が永遠であるように見えることが、不安を生むのなら」
視線が突き刺さる。
「終わりを明示すべきです」
沈黙。
ユリウスがゆっくり頷く。
「それは……大きな一歩です」
「弱さでは?」
保守派の貴族が反論する。
「隣国に隙を見せるだけだ」
「違います」
私は首を振る。
「終わりを決められる制度は、強い」
終わりを奪われるのではなく、自ら決める。
それが、均衡だ。
*
王都広場。
任期制導入の報は、瞬く間に広がった。
「王が期限を設けた?」
「十年?」
「退位する前提なのか?」
混乱と興奮が混じる。
リリアはその中心に立っていた。
「どう思う?」
若手商人が尋ねる。
彼女は少し考えてから言う。
「王が、自分の終わりを決めた」
「それが?」
「強い」
自分でも驚くほど、はっきりと言えた。
「永遠であることにしがみつかない」
それは、共和思想に近い。
だが完全ではない。
王は残る。
だが期限付きで。
「……進化している」
リリアは呟く。
王制は、硬直していない。
*
セレスタ公国。
「任期制?」
ミレイアが報告書を差し出す。
カイエルは目を細める。
「予想以上に早い」
「王制が柔軟であれば、我々の主張は弱まります」
「そうだな」
彼は苦笑する。
「だが完全ではない」
「ええ」
「王が選ばれる仕組みは?」
「まだ王族中心です」
カイエルは立ち上がる。
「ならば次は、そこだ」
王が期限付きでも、血統に縛られているなら。
揺らぎは残る。
*
王城。
フィオナが静かに報告する。
「市場は好意的に反応しています」
「下落は?」
「ほぼ止まりました」
レティシアが肩をすくめる。
「剣より効いたな」
「まだわかりません」
私は答える。
「軍は引いていない」
国境の演習は続く。
思想は消えていない。
任期制は、第一歩にすぎない。
*
夜。
私は一人、執務室に残る。
王冠は机の上。
それを見つめながら、ゆっくりと考える。
十年。
それが私の期限になる。
その時、私は退く。
退いても国が揺れないなら。
制度は成功だ。
だが退いた後、誰が立つ?
王族か。
貴族か。
民か。
そこまで設計しなければ、任期制は半端だ。
扉がノックされた。
「陛下」
アルヴェルトの声。
「セレスタ軍、補給を増強しています」
私は目を閉じる。
任期制導入は、思想への回答。
だが軍は、思想では止まらない。
静かな戦争は、まだ終わらない。
むしろ次の段階へ進もうとしている。
私は王冠に手を伸ばす。
「王は永遠ではない」
だが今は、まだ立ち続ける。
期限があるからこそ。
その期限までは、揺らがない。
均衡を守るために。
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