表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初代再編王ですが「王はいらない」と言われました ― 王制不要論と静かなる戦争 ―  作者: 桜庭ルナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/21

第4話 演習という名の圧力

 国境地帯に展開したセレスタ軍は、「演習」と称して陣を敷いた。


 だが演習にしては、兵数が多い。


「三千」


 報告書を読み上げるレティシアの声は低い。


「補給隊も含めれば四千に近い」


「侵攻の兆候は」


「今のところはない」


 “今のところ”。


 その言葉が重い。


 王城評議室には、地方代表と商会代表も呼ばれていた。


 地方代表ユリウスが口を開く。


「王制不要論で揺れているところに軍を見せるとは……」


「露骨だな」


 アルヴェルトが頷く。


「思想と軍事を同時に使う。古典的だが効果的だ」


 フィオナが続ける。


「市場は再び警戒を強めています」


 数字は正直だ。


 恐怖を、即座に反映する。


 私は地図を見つめる。


 国境はまだ遠い。


 だが圧力は、ここまで届いている。


 *


 王都では、声が二つに割れ始めていた。


「王制を守れ!」


「いや、王がいるから狙われるんだ!」


 若者の集会は規模を増し、商会の中でも意見は対立する。


 リリアは会館の窓から広場を見下ろしていた。


「軍が出たって?」


 後輩商人が駆け込んでくる。


「はい。国境で演習を」


 彼女は唇を結ぶ。


「王がいるから挑発されるのか」


 自問のような言葉。


 だが、すぐに首を振る。


「違う」


 隣国は常に力を見せる。


 王がいても、いなくても。


「問題は、こちらが揺れていること」


 揺れている国は、狙われる。


 王制そのものではない。


 揺らぎが標的だ。


 *


 王城。


 レオンハルトが地図の前に立つ。


「出陣は早計だ」


「わかっています」


 私は答える。


「演習に対して軍を動かせば、相手の思う壺です」


「だが無反応も弱さと見られる」


 均衡は、常に綱渡りだ。


 レティシアが言う。


「国境防衛線を一段上げる。見せるだけだ」


「戦わずに示す」


「それが剣の役目だ」


 私は頷く。


「許可します」


 レティシアは静かに一礼し、部屋を出た。


 戦場ではなく、抑止のための移動。


 それでも兵は緊張する。


 *


 その夜、再び通貨が揺れた。


「軍事不安が原因です」


 フィオナが告げる。


「売りが増えています」


「準備金は」


「まだ余裕はあります」


 私は深く息を吐く。


「演説を行います」


「軍事について?」


「いいえ」


 私は窓の外を見る。


「王についてです」


 *


 翌日。


 王都広場は再び人で埋まった。


 王が続けて姿を見せることに、賛否はある。


 だが今は、隠れるべきではない。


「隣国が軍を展開しました」


 私は率直に告げる。


 ざわめき。


「それは王制のせいだ、と言う声もあります」


 さらにざわめきが広がる。


「ですが、王がいなくなれば軍は消えるでしょうか」


 沈黙。


「王がいなくなれば、国は一つになるでしょうか」


 私は群衆を見渡す。


「王制を疑うことは自由です」


「廃すべきだと主張することも自由です」


「ですが」


 声を強める。


「揺らいだままでは、どの制度でも狙われます」


 風が吹き、旗が揺れる。


「今、問われているのは王制ではありません」


 私は胸に手を当てる。


「この国が、揺らがずにいられるかです」


 沈黙の後、誰かが拍手をした。


 少数だ。


 だが確かに響いた。


 *


 夜。


 報告が入る。


「通貨、下落幅縮小」


 フィオナが静かに言う。


「軍事的緊張は維持されていますが、パニックは回避」


 私は頷く。


 完全勝利ではない。


 だが崩れていない。


 *


 同時刻、セレスタ公国。


「王は逃げませんね」


 ミレイアが言う。


「逃げない王は、強い」


 カイエルは腕を組む。


「だが強い王は、いずれ限界を迎える」


「限界?」


「個人は、永遠ではない」


 彼の目が細められる。


「そこを突く」


 *


 王城の執務室。


 私は一人、灯りの下で考えていた。


 王は、永遠ではない。


 カイエルの言葉。


 討論の一節。


 それが頭を離れない。


 もし王が永遠でないなら。


 制度は、王の終わりを前提に設計されるべきではないか。


 任期。


 選出。


 退位。


 まだ構想にすぎない。


 だが、揺らぎは確実に教えている。


 王制は守るだけでは足りない。


 進化しなければ、いずれ崩れる。


 窓の外、遠くで雷鳴が鳴った。


 演習は続く。


 思想は広がる。


 数字は揺れる。


 静かな戦争は、確実に深まっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ