第23話 裏切りの証拠
証拠は、偶然から始まった。
港の税関で押収された書簡。
偽装された商取引文書の中に、不可解な符号が紛れていた。
「解読できました」
フィオナが淡々と告げる。
「内容は」
「王権強化と引き換えの経済圧力緩和案」
評議室が静まり返る。
「差出人はセレスタ財務局」
「受取人は――」
言葉が一瞬止まる。
「グラン=カリオ家」
重い沈黙。
アーネスト。
*
「本人に確認を」
アルヴェルトが低く言う。
「逃げる可能性は」
「低い」
レティシアが即答する。
「彼は逃げない」
私は頷く。
「呼びましょう」
*
執務室。
アーネストは落ち着いた足取りで入室した。
「お呼びでしょうか」
私は書簡を机に置く。
「これは何ですか」
彼は目を落とす。
一瞬の沈黙。
「提案です」
「密約です」
「実行はしていません」
声は揺れない。
「燃やしました」
正直だ。
「だが接触は事実」
「はい」
「なぜ報告しなかった」
「混乱を避けるためです」
空気が張り詰める。
「混乱は今、起きています」
私は静かに言う。
「あなたは王を守りたいと言った」
「はい」
「だが王に隠した」
沈黙。
「外圧に屈する形で改革を止めれば」
彼は言う。
「王は疑われる」
「だから迷いました」
迷い。
それが本音だ。
*
「裏切りですか」
彼は問う。
私は首を振る。
「違う」
「だが誤りです」
アーネストの拳がわずかに震える。
「王を守るための選択でした」
「王を守るとは、王の言葉を守ることです」
沈黙。
「私は退くと宣言しました」
「それを外圧で曲げれば」
「王は信用を失う」
彼は目を閉じる。
理解している。
だが受け入れきれない。
*
「処分を」
彼は言う。
「処分はしません」
驚きが走る。
「なぜ」
「あなたは売っていない」
「実行していない」
「迷っただけです」
私は続ける。
「だが評議には報告します」
「隠しません」
透明性。
痛みを伴う選択。
*
評議室。
書簡は公開された。
ざわめきが広がる。
「王族が外敵と接触!」
「非常宣言を!」
強硬派が声を上げる。
だが私は言う。
「実行はされていない」
「密約は成立していない」
「迷いはあった」
「だが売ってはいない」
アーネストは自ら立ち、頭を下げる。
「軽率でした」
沈黙。
彼の支持者たちも言葉を失う。
王族復帰派の正義は、揺らいだ。
*
セレスタ公国。
「密約は露見しました」
ミレイアが言う。
「想定内だ」
カイエルは静かに答える。
「王はどうした」
「処分せず、公開」
彼はわずかに目を細める。
「強い」
隠さず、裁かず、透明にする。
それは王の自信。
*
王城、夜。
アーネストは一人、廊下に立つ。
「私は何を守ろうとした」
王か。
威厳か。
それとも自分の理想か。
足音が近づく。
セラフィナだ。
「あなたは王を裏切っていない」
彼女は言う。
「迷っただけです」
若い声。
「国を守る方法は、一つじゃない」
アーネストは小さく笑う。
「君は単純だ」
「未熟です」
「だが羨ましい」
*
執務室。
私は書簡を閉じる。
裏切りは未遂で終わった。
だが火種は残る。
内部の亀裂。
外部の圧力。
市場の揺らぎ。
軍の緊張。
全てが同時に頂点へ向かう。
第二次再編。
もう先延ばしはできない。
王は、自らを解体する決断を下す時が来た。
裏切りの証拠は、破壊ではなく覚悟を促した。
静かな戦争は、ついに核心へ到達する。
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