第19話 港町の炎
火は、小さな怒号から始まった。
港町ラディウス。
停泊していた船の一隻が、荷下ろしを拒否したことがきっかけだった。
「価格が安定するまで出せない!」
「契約違反だ!」
怒鳴り合いは、押し合いへ。
誰かが松明を落とす。
木箱に火が移る。
炎は一瞬で広がった。
*
「港で暴動が発生!」
王城に報が入る。
私は即座に立ち上がる。
「規模は」
「小規模ですが拡大の恐れあり」
「軍は」
「出動準備中」
レティシアが言う。
「鎮圧は可能だ」
「鎮圧ではなく、鎮静を」
私は答える。
力で抑えれば、思想は燃え上がる。
*
港町。
煙が立ち込める。
商人と労働者が対峙する。
「王が弱いからだ!」
「隣国の圧力だ!」
怒号はもはや理屈を持たない。
そこへ、馬車が止まる。
降り立ったのはリリア。
「火を消しなさい!」
彼女は叫ぶ。
「今ここで争えば、商会も港も終わる!」
「王の手先か!」
石が飛ぶ。
肩をかすめる。
それでも彼女は退かない。
「王は今、制度を変えようとしている!」
「それが原因だ!」
「違う!」
声が割れる。
「揺れているのは王じゃない!」
「私たちよ!」
沈黙が生まれる。
「恐怖で燃やしても、明日は来ない!」
炎が揺れる。
数人が水桶を運び始める。
やがて、火は鎮まる。
完全ではない。
だが、爆発は防がれた。
*
王城。
「港は鎮静」
報告を受ける。
私は深く息を吐く。
「軍は出動せず」
「商会代表の働きが大きい」
アルヴェルトが言う。
私は頷く。
王だけではない。
民が動いた。
それが救いだ。
*
同時刻、セレスタ公国。
「港町で暴動未遂」
ミレイアが報告する。
「鎮圧された」
「誰が」
「商会代表」
カイエルは目を細める。
「民が動いたか」
「王ではなく」
「……強い」
彼は静かに呟く。
「王制が進化するだけでなく、民も成熟している」
それは理想に近い。
だが同時に脅威でもある。
*
王城、夜。
私はリリアを呼んだ。
「怪我は」
「かすり傷です」
「無茶をしましたね」
「誰かが止めないと」
彼女は真っ直ぐに言う。
「火は思想より速い」
私は微笑む。
「その通りです」
沈黙。
「あなたは、王位選出制が導入されたら」
私は問う。
「関わりますか」
彼女は少し驚く。
「商会として?」
「一人の民として」
長い沈黙。
「関わります」
静かな答え。
「制度を壊すためではなく、守るために」
その言葉に、確信が芽生える。
*
夜更け。
港町の煙は消えた。
だが焦げ跡は残る。
経済の傷。
思想の傷。
信頼の傷。
王は立っている。
軍も持ちこたえている。
商会も踏みとどまった。
だが限界は近い。
次に揺れれば、持たないかもしれない。
机の上に、第二次再編案がある。
王位完全選出制。
弾劾制度。
王族特権の削減。
決断は近い。
炎は消えた。
だが火種は、まだ燻っている。
静かな戦争は、次の段階へ進もうとしていた。
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