第18話 若き騎士の決意
夜明け前の訓練場は、まだ冷たい空気に包まれていた。
鋼のぶつかる音が、静寂を裂く。
セラフィナは片腕に包帯を巻いたまま、木剣を振っていた。
「無理をするな」
背後から声がかかる。
レティシアだ。
「無理はしていません」
息を整えながら答える。
「国境はどうなっていますか」
「睨み合いだ。だが兵は増えた」
セラフィナの目が強くなる。
「出陣を願います」
「まだ早い」
「王都が揺れています」
彼女は木剣を握り直す。
「国境が崩れれば、王都も崩れる」
若いが、理解している。
思想と軍事は繋がっている。
「守るべきは王か」
レティシアが問う。
「国です」
即答。
「王は?」
「国を守る人です」
レティシアは小さく笑う。
「青いな」
「未熟です」
「だが真っ直ぐだ」
*
王城。
私は国境報告を受けていた。
「兵の士気は高い」
レティシアが言う。
「だが若手の一部は焦っている」
「焦り?」
「王制が揺れていることに不安を感じている」
軍もまた、思想から自由ではない。
王が期限付き。
王位選出制。
それは兵にとって未知だ。
「軍の安定は」
「まだ保たれている」
「なら守り続ける」
私は言う。
軍が揺れれば、国家は崩れる。
*
商会。
取り付け騒ぎは拡大していた。
「預金を引き出せ!」
「紙幣は信用できない!」
リリアは銀行前に立つ。
「預金は保護されている!」
「証拠は!」
「王城が保証する!」
怒号が飛ぶ。
「王を信じろと?」
彼女は一瞬言葉を止める。
信じろと言えるか。
保証できるか。
「信じろとは言わない」
彼女ははっきり言う。
「数字を見なさい」
人々がざわつく。
「準備金はある」
「流出は止まりつつある」
「恐怖で引き出せば、恐怖が現実になる」
言葉は静かだが強い。
少しずつ、列は短くなる。
完全ではない。
だが崩壊は避けられた。
*
セレスタ公国。
「王国は耐えている」
ミレイアが報告する。
「市場防衛策が効いています」
「軍は?」
「動かず」
カイエルは目を細める。
「動かないからこそ、圧力になる」
「王は退く準備を進めています」
「ならば」
彼は静かに言う。
「退いた後を問う」
王がいなくなった後。
そこに空白があれば、思想は入り込む。
*
王城、夜。
セラフィナが正式に復帰願を提出した。
「許可します」
私は言う。
彼女は一礼する。
「陛下」
「何か」
「王が退く日が来ても」
彼女は真っ直ぐに見る。
「国は守ります」
若い誓い。
王ではなく、国へ。
私は頷く。
「そのために、制度を整えます」
*
翌朝。
市場はわずかに落ち着いた。
通貨の下落は止まりつつある。
だが傷は残る。
取り付け騒ぎは再発する可能性がある。
国境は緊張したまま。
評議は分裂。
商会は揺れ。
軍は不安を抱える。
若き騎士は復帰し、
若き商人は群衆を止める。
若き貴族は迷いながらも王を守ろうとする。
国家は揺れている。
だがまだ立っている。
静かな戦争は、終わらない。
だが一つ、変わった。
王だけが国を支えているのではない。
民もまた、支え始めている。
それが希望か。
それとも新たな火種か。
答えは、まだ出ていない。
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