第15話 商会の火種
王都商会会館の大広間は、いつになく騒然としていた。
「王城に近づきすぎだ!」
「流通保証は商会の独立を損なう!」
「いや、あの判断がなければ港は止まっていた!」
声がぶつかり合う。
中央に立つのは、リリア・ヴァルテ。
若き商会代表。
彼女の決断で、小麦流通は再開された。
だがその代償に、商会内部の亀裂が露わになっている。
「王に頼る商会は、もはや商会ではない!」
年配商人が机を叩く。
「国家に組み込まれる気か!」
リリアは静かに答える。
「組み込まれたのではありません」
「協力したのです」
「同じことだ!」
怒号。
若手商人が口を挟む。
「国家が崩れたら、商会も終わる」
「今は耐える時だ」
「耐え続ければ、自由は失われる!」
言葉は鋭く、互いを削る。
*
会議が一時中断される。
廊下で、若手商人カイルがリリアに近づく。
「あなたは王を信じているのか」
「信じているわけじゃない」
彼女は答える。
「必要だと思っている」
「王が?」
「均衡が」
カイルは眉をひそめる。
「均衡は、利益を生まない」
「でも崩れれば、損失は無限よ」
静かな言葉。
だが説得は容易ではない。
*
一方、王城。
「商会内部で対立が激化しています」
フィオナが報告する。
「流通保証に反発する勢力が台頭」
「当然だな」
アルヴェルトが言う。
「国家と市場は、距離が必要だ」
「だが今は接近せざるを得ない」
私は考える。
商会が割れれば、市場は揺れる。
市場が揺れれば、王制は責められる。
全てが連動している。
*
その夜。
リリアのもとに匿名の書簡が届く。
――王は任期で退く。
――次の王は誰か。
――商会は、準備を。
差出人は不明。
だが意図は明白。
王位選出制への布石。
商会が動けば、王位は動く。
「……早すぎる」
リリアは呟く。
制度はまだ整っていない。
だが思惑は動き始めている。
*
翌日、商会臨時総会。
「王位選出制が導入されれば、商会の影響力は増す」
年配商人が言う。
「今のうちに立場を固めるべきだ」
「王候補を支援するのか?」
「当然だ」
ざわめき。
リリアは立ち上がる。
「王位を取引材料にする気?」
「現実だ」
「それは腐敗よ」
静寂。
「王制が揺れている今だからこそ」
彼女は続ける。
「私たちは制度を守る側であるべきよ」
「制度を利用する側ではない」
反発の視線。
だが同時に、迷いの視線もある。
商会は利益の集合体。
だが国家が崩れれば利益は消える。
どこまで国家に関与すべきか。
答えはない。
*
同時刻。
王城の廊下。
アーネストがアルヴェルトとすれ違う。
「商会が揺れているそうだ」
「情報は早いな」
「王位選出制が現実味を帯びれば、当然だ」
「それを望むのか」
アーネストは少し考える。
「王が制度の一部になるなら」
「制度は争奪の場になる」
鋭い視線。
「それでも良いと?」
アルヴェルトは問い返す。
「王が強ければ、争奪は起きない」
答えは揺らがない。
*
夜。
リリアは一人、商会の屋上に立つ。
王位選出制。
もし本当に導入されれば。
王は血ではなく、選ばれる。
そのとき、商会はどう動くべきか。
彼女は自問する。
「私は、誰を選ぶ?」
王か。
制度か。
民か。
その問いは、まだ答えを持たない。
だが確実に、近づいている。
商会の火種は、小さく燃え始めた。
思想だけではない。
利益もまた、戦場になる。
静かな戦争は、経済の奥へと入り込んでいく。
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