第12話 静かな戦争の始まり
国境の地図に、赤い印が増えていく。
補給線の延長。
野営地の拡張。
演習は、演習のまま。
だが兵の数は、増えている。
「三日以内にもう一段増強されます」
レティシアが淡々と告げる。
「侵攻の兆候は」
「明確な命令は確認できません」
「だが準備はできている」
「ええ」
静かな圧力。
それが最も厄介だ。
*
王城評議室。
「軍事衝突は避けられるか」
ユリウスが問う。
「可能性は五分」
レティシアは正直だった。
「だが、こちらからは仕掛けない」
「弱腰だと受け取られないか」
「受け取られてもいい」
私は言う。
「全面戦争になれば、王制不要論は爆発します」
思想と軍事は結びついている。
戦争は、理想を飲み込む。
*
同時に、経済も動く。
「通貨が再び売られています」
フィオナの声。
「軍事緊張の影響か」
「それだけではありません」
彼女は一枚の書簡を差し出す。
セレスタ商会連合からの声明。
――王制の不安定さが市場を揺らしている。
「思想と経済を同時に」
アルヴェルトが低く言う。
「徹底している」
静かな戦争。
刃は見えない。
だが確実に削ってくる。
*
王都。
広場は落ち着いている。
だが不安は消えない。
「また価格が上がるのか」
「戦争になるのか」
人々の声は、疲れていた。
リリアは市場を歩く。
「王は動いている」
誰かが言う。
「でも終わるのか」
彼女は立ち止まる。
「終わらない」
小さく答える。
「だから進化するの」
制度は、完成しない。
だから続く。
*
セレスタ公国。
「王は全面戦争を避ける」
ミレイアが報告する。
「当然だ」
カイエルは頷く。
「戦えば、王制は結束する」
「では?」
「削る」
短い言葉。
「軍事は影」
「本命は信用だ」
信用を奪えば、王は孤立する。
*
王城。
私は一人、草案を前にしている。
第二次再編。
任期制だけでは足りない。
王弾劾制度。
王位選出制。
王族特権削減。
だがそれでも足りない。
王が退いた後、混乱が起きれば意味がない。
制度は“移行”まで設計されねばならない。
扉が開く。
「陛下」
フィオナ。
「市場防衛策、実行可能です」
「準備金を使う?」
「限定的に」
「副作用は」
「将来的な財政圧迫」
短期安定か、長期負担か。
均衡は常に交換だ。
「実行しましょう」
私は決断する。
「今は崩さないことが優先です」
*
翌日。
王国は通貨防衛策を発表する。
市場は一時的に落ち着く。
だが評論家は言う。
――持続可能か?
疑問は消えない。
*
夜。
国境で、再び小規模な接触が起きる。
今回は矢は放たれない。
だが睨み合いは続く。
戦争ではない。
平和でもない。
その中間。
静かな戦争。
*
王城の塔から、王都を見下ろす。
灯りは消えていない。
人々は眠り、明日も働く。
思想に揺れながら。
価格に揺れながら。
不安に揺れながら。
私は呟く。
「王は永遠ではない」
だが。
この揺らぎが続く限り、王は必要かもしれない。
それが真実なら。
王は退く前に、証明しなければならない。
王がいなくても回る制度を。
軍に頼らず、
怒りに流されず、
信用を失わない国家を。
遠くで雷が鳴る。
嵐はまだ来ていない。
だが気配は濃い。
静かな戦争は、終わらない。
それは今、始まったばかりだ。
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