第四話 デスライブの前兆
学校に行くと校長室に呼び出された。
納得の呼び出しである。
ただ理不尽なことを言われる……ような気がする。
よし証拠を全世界に流してやれ。
「真田、ライブにして。俺の胸ポケットに入れて撮影ね。上にセーター着てるから気づかれないはずだ」
「うん。え、えへへへへへ。なななな、なんだか楽しいね」
真田は喜んでる。
推薦もダメだったんだし学校に従う理由なんかない。
バカめ、大人しく従ってくれると思うのが甘いのだよ。
生徒指導室に行くと教頭と生徒指導の飯島ににらまれた。
「入れ」
偉そうだな。
飯島はふんぞり返る。
その偉さを支えていたもの。
それは推薦入学でしかない。
もはや貴様に敬意を持つ理由はないのだよ。
「お前らのせいで田島先生が亡くなった」
「完全な事故かと」
ぼくは言いきった。
だって知らないよ。
なぜ学校の最寄り駅から電車で15分の繁華街に行くのかな!?
交尾したいならもっと遠くでやりなよ。
逆方面の大宮まで行けば遭遇しないだろ!
いつか学校関係者に遭遇する運命だったと思う。
それに逃げなければ死ななかった。
クビだけですんだだろう。
そりゃ社会的には死んだだろうけどさ。
「キサマァッ! だいたいお前ら! なんで池袋なんかにいた!?」
今度は教頭がテーブルを叩く。
「健全なデートですが」
映画見て、食事して、オタクショップで買い物して帰るつもりだった。
少なくともあの二人よりは健全だ。
「お前らぁッ! 受験はどうした!?」
「あきらめました。学校名だけで落ちます」
もうさ、理解しろよ。
もう俺たちにチャンスなんかないんだって。
「ふざけるなああああああああああッ! やる気がないだけだあああああああッ!」
教頭が怒鳴る。
「このばかにゃる……」
突然ろれつが回らなくなった。
なんだか様子がおかしい。
顔の半分が歪んでる。
今度は飯島が怒鳴る。
「今すぐアカウントを消せ!」
「警察の証拠になるらしいんで無理です」
「なんだとお前! いいから消せ! おい真田! お前が消せ!」
「いいいいいい、嫌です!」
すると教頭が叫んだ。
「貴様ああああああ! うがああああああああああああああ!」
教頭が咆吼する。
明らかな異変だった。
「あの先生? 大丈夫ですか!?」
すると別の教師が生徒指導室に入ってきた。
女性教諭、美術の鈴木先生だ。
「きょ、教頭先生! ライブされてます! 大量の苦情の電話がきて職員室がパニックに!」
うん、してるよ。
そりゃするよ。
お前らに払う敬意なんかないもん。
「なあああああああにいいいいいいいいい!」
飯島が激怒した。
「そりゃするでしょ。なに言われるかわからないし。ねえ真田さん」
「ううううう、うん。先生たち……信用できない……です」
「おまええええええええええええええええええ!」
教頭は叫んだ。
次の瞬間、教頭の体がまるで糸が切れたように床に崩れた。
「教頭先生!」
「あの飯島先生」
「なんだ! この鬼め! いま教頭先生がたいへんなんだぞ!」
「たぶん脳梗塞だと思いますよ。爺ちゃんが倒れたときと同じ症状」
ぼくはスマホを取りだして教頭を撮影する。
コメント欄が「24」「通報しました」で埋まった。
「リスナーが救急車呼んでくれたみたいです。ただアテにできないんで先生たちも救急車呼んでください」
「い、いや……だが……」
「このままだと教頭先生死にますよ」
だってよだれ垂らして泡ふいてるもん。
変なイビキしてるし。
「す、鈴木先生! 救急車お願いします!」
鈴木先生が持ってたスマホで救急に電話する。
どうやらすでに通報が行ってたようだ。
数分で救急車が来た。
ストレッチャーで教頭が運ばれて行く。
ぼくは真田にスマホを返した。
「はい、真田さん。いったんライブ締めようか」
「ライブ終わります! また見てねー! はい、神宮司くんも」
「彼氏です。お前らにチャンスはない」
俺はそう言って手を振る。
コメント欄が「死ね」で埋まった。
くっくっく。
うらやましいか諸君。
さて、その後であるが、救急車が来て解散。
そのまま全校生徒が帰宅させられる。
別に教頭に恨みがあるわけじゃないが、助かって元気になってほしいとも思わない。
かと言って死んでほしいとも思わない。
どうでもよかった。
学校の電話は鳴りっぱなしらしい。
ぼくらは手を繋いで寄り道しようと……あ、真田のお父さん、ちーっす。
……にらまれた。
「ばいばい。神宮司くん」
引き離されて一人帰宅。悲しい。
自宅に向かってると今どき珍しい暴走族に遭遇する。
ヘタクソなゴッドファーザーが流れてくる。
頭悪そうな漢字だらけのバイクにまたがるのはマイブラザー。
弟のタケルだ。
ブロッコリーみたいな金髪で作業着みたいなズボンをはいてる。
「お、兄貴」
ぶんぶんぶぶんっとマフラーをふかす。
「うるせえッス」
タケルの友だちも笑う。
「あははははは! 兄ちゃん相変わらずだな」
「お母さんは?」
「酒飲んで寝てる」
すべて了解した。
「牛丼買ってくるがいるか?」
「2倍盛りで」
「了解」
「みんなは?」
「おかまいなく~」
「じゃあ行ってくるわ」
弟は日本の伝統産業暴走族に入会した。
ぼくのお受験の様子を見て生命の危険を感じたそうである。
こっちに被害がなければなんでもいいや。
こうして兄弟二人とも受験に失敗。
二人とも受験に失敗してるのだから遺伝子か育て方か家庭環境が悪かったのだろう。
ぼくは悪くないはずだ。
幸い、壊れて大学付属校をドロップアウトしたぼくを憐れんだタケルとの兄弟仲は悪くない。
他の家と比べても仲良しの方だと思う。
ぼくらは被害者で、共通の敵である父親がいるせいかもしれない。
駅前まで戻ってかつてアルバイトしてた牛丼屋に行く。
真田がいた。
「あれどうしたん?」
「どうしたって学校で緊急保護者説明会だって」
あー……うちの親は帰ってこないのと家で酒飲んで寝てるのだ。
おそらく保護者会が開かれてることすら知らないだろう。
残念ながら弟を待たせてる。
テイクアウトで牛丼を買って真田と別れて家へ。
もうなにも起きないだろうと安心してた。
だけど、ぼくはこれはまだ準備体操だったと思い知るのである。




