第三話 ファイナルでデスロード的なアレ
ぼくらは遊びに行く。
されと我らは陰キャどうし。
男女で遊びに行くときのセオリーなど知らない。
なので行くのは自然と映画館になる。
場所は都内というか埼玉県民の庭である池袋の映画館。
見たい作品はアニメ。
たしかに明らかに駄作感漂うホラーも魅力的だ。
だがぼくの自己満足になってしまうかもしれない。
「え、えへへへへへ。あのホラーも面白そうだね」
「ホラーの方がいい?」
「え、えへへへへ……実は」
「ならあっちにしよう」
ホラーに変更。
手を繋いだり抱きつかれたりとドキドキのイベントが……オタクの間に起こるはずもない。
ひたすら叫ぶ元男性アイドル俳優に大御所俳優の無駄遣いに原作無視のクソ脚本……。
嫌な笑顔でニヤニヤする。
「う、うへへへへへ。つまらなかったね!」
「うん!」
満面の笑みである。
ぼくも満面の笑み。
オタクどうしの仄暗い楽しみを共有した。
面白いだけが映画じゃないのだ。
特にオタクにとっては。
カツラの浮いた時代劇。
ツッコミどころ満載の実写化。
原作読んでなさそうな大根役者の棒読み。
そのどれもが素晴らしい。
大満足で帰ろうとする。
そう、ぼくらは満足だったのだ。
上機嫌で劇場を後にし、オタクショップでライトノベルを買って帰ろうと思ったのだ。
だが池袋の闇はそれを許さなかった。
味噌ラーメンのチェーン店を某ネットミームの名前だけで目指す。
十年以上続いたあのネットミームだ。
オタクならではの悪ノリだろう。
「あ、ぶぶぶ、ライブ撮るね」
真田はライバーでもある。
とはいえライブ配信には10人も来ない。
一人、ヘタすると0人のときだってある。
それでも続けていた。
「え、えへへへ、いま、か、彼氏と野●先輩ラーメンに向かいます」
ちょりーっす。
「登録者何人いるの?」
「えっと五十人……たったいま二十人になった……同接も三人……」
彼氏と言ったのがまずかったのだろう。
「あ、お父さんがコメントした……今日帰ったら話し合うぞ……だって」
「ガッデム」
なんてことだ!
真田のお父さんが登録してたようだ。
受験期間だというのに浮かれていたのがマズかったか!
二人とも大慌て。
陰キャカップルの初デートに暗雲が……そして見てしまったのだ。
「あ、あ、あ……」
真田が何かを見て固まる。
「どうしたん?」
そう言った瞬間、ぼくも固まった。
そこにいたのは同じ学年の女子。
真面目な印象の三橋美弥子だった。
いつもの大人しい格好ではなく垢抜けていた。
それだけなら休日にあった友人だろう。
問題は男と一緒だったことだ。
いや恋愛は自由だ。
一応日本は自由恋愛の国だ。
同級生だったら、オタクくんでもヤンキーくんでも歓迎しただろう。
声だってかけたかもしれない。
だけど……。
「た、た、た、田島先生」
一緒にいたのは私服の太った男だった。
四十半ばの腹の出た……国語担当教諭の田島だった。
ぼくらはスイス銀行に口座を持つ殺し屋の如き動きでビルに隠れる。
こういうときだけ素早いのだ。
角から様子をうかがう。
もちろん気配を消す。
クラスで存在感を消す。陰のものの固有スキルだ。
「そうだ……実は親子に違いない。離婚して名前が変わったんだ。そうだそうだ」
必死に自分に言い聞かせる。
だが真田は残酷だった。
「美弥子ちゃんち、離婚してませんよ。お父さんはたしか商社のエリートだって自慢してて」
そうだ。三橋と言えば鼻につくやつだった。
真面目なフリしていつもマウント取ってくる。
言葉の端に毒があるタイプだ。
ただ陰キャカップルのぼくらはハナから相手にされてない。
空気のように扱われている。
序列はすでに下。バカにする価値もないのだ。
だから嫌な思いをさせられることも少なかった。
少しだけ接近する。
すると声が聞こえてきた。
結構大きな声で……言い争ってるのか……。
すると田島が三橋を腰に手を回し抱き寄せる。
「ちょっと近い!」
「ぐへへへ。いいのか? 俺がごまかしてやってるんだぞ」
おうふ……考えてた中で一番最悪なの来た。
街中でデカい声でなにやってんだこいつら……。
「いいからホテル行こう。ぐへへへ」
「るっせーな。万券あるんだろうな?」
「あるよ~」
最悪だ……。
ぼくらが抱えるには大きすぎる。
「真田さんや。見なかったことにするか大人にチクるか……どっちがいいと思う?」
すると真田が震えだした。スマホの画面を見ながら。
待て! おま!
「ライブ切ってませんでした……」
すべては世界に公開されていた。
それに気づいた頃には同接三人だったライブの視聴者が数万人になっていた。
【逮捕まだぁ?】
なにもかも偶然と少々の不注意が起こしたマジックである。
コメント欄が【逮捕】【通報】で埋め尽くされていく。
真田パパンから電話がかかってきた。
「あ、パパ! たいへんなことになっちゃって……」
「待って真田! まだライブ終了してない」
「あ……」
思えば、これがあの怒濤の卒業までの地獄のデスロードのはじまりだったのだろう。
通報を受けて警察がぼくらの後ろから走ってきた。
「なんだねキミらは! うああああああああああああ!」
田島が捕ま……あ、逃げた。
カツラが脱げ、40代のいい年したおっさんが警察から逃げる。
三橋は女性警官の前で大声で泣いていた。
真田は人生が詰んだおっさんを撮影してた。鬼かな?
おっさんが車道に飛び出す。
おい、繁華街でそれは自殺行為……ガッシャーン!
田島が飛んでいく。
夜のお店の情報サービスの車にはねられたのだ。
ぼくは立ち尽くした。
どうしてこうなった?
「ファイナルなんたらで見たよ……」
「とりあえずライブ終了しなさい」
ライブ終了。
数万人が視聴していた。
その後、すぐにぼくらは警察に保護された。
真田は親に死ぬほど怒られたのだった。
ぼく? 親は来ない。警察もあきれかえってた。
でも何もかも偶然と不注意なのだ。
ぼくらは犯罪を犯したわけではない。
警察署から解放しない理由はない。結局夜には解放される。
こうして伝説を作りつつ……ぼくらの初デートは終わった。




