第二十四話
家に帰ったらデータの解析だ。
スマートフォンからファイルを抜く。
それだけだと足りない。
匿名メッセンジャーの端末に残るアプリのデータベースをファイルダンプしておく。
暗号化されてるが、世に広く出回ってるものが突破されてないわけもない。
暗号形式を調べて平文、要するに普通のテキストファイルに戻すスクリプトを走らせる。
同時にファイルの吟味だ。
どうやら葛西のアホは手広くやってたらしい。
大量の仲良しファイルだ。
中には小学生や幼稚園生まである。
……一気に危険度が上がったぞ。
たしかにぼくはサイコパスだ。
生まれつき良心を持ち合わせてない。
だが論理的に考えてこれはまずい品だとわかる。
ただ被害者に同情心がわかないだけだ。
ぼくにとって、顔も知らない他人は映画の役者と同じだ。
どうしたものか。
こういうときはまともな人に聞くのがいいだろう。
真田に電話する。
「どどどど、どうしたの神宮司くん!」
うれしそうにあわてる声を聞いて緊張がほぐれた。
「野球部の秘密ファイルを手に入れた……けど法律的にアウトなんだ。それに警察も信用できない。どうすればいいと思う?」
「ええええええええええ、えーと……リスナーに聞いてみれば? 大人だし」
一番役に立たなそうな連中だ。
でも記録に残すという意味ではいいかもしれない。
「じゃあ……いまからライブするね」
『【悲報】警察に殺されそう。とんでもないブツを手に入れてしまいました【誰か助けて】』
よし。ライブ開始。
『なになに?』
『また人が死んだの?』
『かなたくん人殺しすぎぃ!』
ひどい誤解である。
ぼくは殺してない。
殺したのは警察だ。
「えーっと、昨日殺された子のスマホを手に入れてしまいました……誰か助けて……」
『とうとう泣き言か……』
『で、次誰殺すの?』
『はやく殺せよ!』
「次はぼくになりそうだよ!」
『なに手に入れたのよ?』
「そうそれ! えっと一部を公開するね」
裸の頭ハゲたおじたんが交尾してる写真。
相手は小さい。
プライバシーのために黒海苔。
おじたんは……まーいいか。
生命の神秘だね。
画面に出すとツッコミが殺到する。
『ちょ!』
『それ埼玉県知事や!』
『BANを恐れなすぎだろ!』
「え? 埼玉県知事?」
あわてて検索。
あ、本人だ。
「あ、ぼく死んだ。埼玉県警が殺しに来るわ」
はい、凡ミスで人生終了。
もういいや。
他のも公開しよう。
「じゃあこれは?」
『元大臣や!』
「じゃ、これは?」
『最高裁判事や!』
「じゃ、これは?」
『大手企業のCEOや!』
ほう……なるほど。
「ぼく……、みんなに会えてよかった……」
『あきらめんな!』
すると赤スパととともにある書き込みが来た。
『元参議院議員です。お話を聞きたいと思います』
「殺されないのなら」
『もちろん』
『XX警備です。ぜひ会談を警備させてください』
あれ……?
なんだか話が。
『ライブ中継させてください!』
リスナーから申し込みが殺到する。
『XX弁護士事務所の藤巻です。全力でサポートさせていただきます』
「あったけええええええええええええええ!」
まさかの支援の申し込み。
何割かはぼくの命を狙ってるかもしれない。
それでもぼくにとって地獄から救ってくれる蜘蛛の糸なのだ。
「お願いします! まだ死にたくない!」
ぼくは泣く。
……その涙は嘘である。
実際のところぼくは自分の命がどうなろうがいい。
ぼくが死ねば真田とタケルの安全が確保できるならそれでいい。
ぼくはサイコパスのクズだ。
ぼくの命に価値はない。
だから今やってるのはディールだ。
敵は警察?
さあね。まだわからない。
でも「お前のことは知ってるぞ」という宣言だ。
これで二人が助かるのなら安いものだ。
そして二時間後に公開で会うことになった。
警察が殺しに来るかもね。
ファイルを弁護士事務所に郵送で送る。
あと暴露系って言われてる人たち数人にもね。
あと一縷の望みってやつで外国マスコミにも。
ぼくがたどり着く前に死んだときの保険だ。
定額制のパックにディスクを入れてコンビニのポストに出す。
それを手渡し用のファイルとノートパソコンをカバンに入れて外に出る。
タケルがバイクでやってきた。後ろに真田がちょこんと乗ってた。
「兄貴、俺も行くぜ!」
一緒に殺人を見学したタケルの友だちも来た。
「後ろに乗れ。ライブ見たぜ。俺も保護してもらうから一緒に行くぞ」
最高に情けない発言だが頼もしい。
バイクで会場に向かう。
会場は喫茶チェーン店。
店の前には山ほど人がいた。
有名インフルエンサーが売るほどいる。
ネットで有名な議員なんかもいる。
「このたびは私のためにお集まりくださり……」
「いいから行くぞ!」
なんか集まった人たちと中に入る。
中にはやはり動画投稿で有名な弁護士がいた。
「かなたくんだね。藤巻です。さっそく今後を話し合おうか」
握手してディスクを渡す。
「複数のインフルエンサーにも送りました」
「マスコミは?」
「信用できません」
「なるほど。私が送ろう。記者会見はやるかい」
「必要なら」
「それで……ファイルを見てもいいかな?」
「どうぞ」
弁護士さんは自分で持ってきた端末でファイルを開いた。
「……どうしようこれ? 私の出身大学の学長いるよ。それに所属してる弁護士会の会長まで」
「ご自由にどうぞ。ただ警察に殺されたくないってだけですし」
「なるほどね……ところで君らの学校の事件……犯人は警察かな?」
「別の勢力が二つ。一つは反社。もう一人は個人だと思います」
「……はは……わかった。ちょっと一人じゃ抱えきれない。仲間に連絡する。ちょっと待って」
弁護士さんがスマホで電話する。
「かなたくん。ライブできる?」
「もちろん」
これが伝説のライブのはじまりだったのだ。




