第二十三話
現状をまとめよう。
ぼくらは違法カジノへ潜入。
幸運なことに一人だった葛西を殺さずに捕獲できた。
本来の作戦なら足をへし折ってから尋問。
白石ちゃんら女子の情報を聞き出して海か湖に沈める予定だった。
たぶん殺した方が運びやすいだろう。
ついでにその辺のヤードに中東で栽培が盛んなポピーの種をばらまいてきた。
あと麻の種もね。
国内栽培での自家製ブリードの種だ。
中国語ができれば入手は容易だ。
外国人用の匿名コミュニケーションアプリでロッカーにお金、公園にブツを置く例の取引で手に入れた。
仮想通貨も悪くないがステルスコインですら足がつく。
やはり危ないブツを手に入れるなら洗濯した紙幣が一番だ。
紙幣の入手方法?
別に日本円じゃなくてもいい。
そりゃ少しだけリスクがある。
簡単だ。
金貸しとギャンブルだ
まず仮想通貨を元手にサーバーを借りて、アダルト動画の配信サイトにレンタルしてるようなところのを借りて海外向けにスロットマシンとポーカー、それにスポーツ賭博のサイトを作る。
仮想通貨なんて自分で作ったミームコインでいい。
カスみたいな価格のアルトコインの機能から新しいコインを作る。
それを身元確認がガバガバなアダルト決済システムで販売して賭けで増やす。
もちろん口座は日本国内在住の外国人のものだ。
儲けはカスみたいなものだ。
でもそれでいい。
その金を資金洗浄する。
SNSで風俗嬢やシングルマザーに貸す。
貸し倒れも多いがそれは経費だ。
債券だけ外国人やヤクザに売る。
踏み倒そうとした連中がどうなろうがぼくは知らない。
お金を下ろすのは出し子。
これは普通のSNSでも見つかる。
都内の公園で受け渡し。
最後に現金を文字通り洗濯機で洗浄して終了。
洗濯と乾燥は北区の奥の方のあまり客がいないコインランドリーで。
監視カメラが壊れてるのは確認済みだ。
それで買ったのが各種道具と種だ。
これは後の展開への布石だ。
ぼくらが疑われたときに育ってくれたらいいなくらいの感覚だろうか。
そして外国人だからの公団に葛西のアホを寝かせる。
起こして証言を取る必要はなかった。
スマホのデータはすべて頂いた。アホが。
わざと監視カメラの映らない場所に置く。
そうしたらアジアの大きな国の言語で「盗人を捕まえたぞ」と賭博場の連絡先に送る。
葛西くんの懐にはカジノから奪った金を抱かせてる。
さーてスマホで撮影しなきゃ。
「ぼくのスマホ技適通ってないんだよね」
「なんだそれ?」
「無線機器の技術基準適合証明と技術基準適合認定。通ってないと違法なんだよね」
「なにやってんのお前?」
「前のが壊れたからさ。捨ててもいいようにいつものオークションで手に入れた」
「バカなのかな?」
「だからさカメラの性能悪くてさ。ま、いいか。ライブはじめよう」
さて監視カメラのない場所と言ったがありゃ嘘だ。
海外のサイトから入るとあら不思議。
監視カメラの角度を変えられる。
いつも世は違う角度に設定してっと。
こっちも別チャンネルでライブ。
『かなたくんのライブ一番乗り』
『乙です』
少しずつ人が集まってくる。
最初はVログのていで街の景色なんかを移動しながら映すお散歩配信だ。
だけど撮影ポイントに移動する。
外国人だらけの団地。
ここの住民の多くは某通販サイトの物流拠点の仕事で夜間いないのだ。
なにごともないように最上階に上がる。
築50年の古い団地だ。6階もあるのにエレベーターがない。
廊下には小さな子どもがいるのか三輪車やスケートボードが置いてある。
そして屋上。
鍵は……錆びて壊れてる。
リサーチどおりだ。
ビニール手袋をはめて屋上に侵入する。
柵がない。
「タケル、見つからないように寝そべってろ。はい、双眼鏡」
タケルと仲間に双眼鏡を渡す。
俺ってサービスいいだろ?
さーて警察屋さん来るかな?
すぐに乗用車が来た。
最大手メーカーの普通の車種。
レンタカーかもしれない。
パトカーで来るほどバカじゃなかったようだ。
中から人が出てくる。
ぼくはすまほでそれを撮影する。
『え? なになに?』
『なんで首絞めてるの?』
男二人がロープで葛西のバカの首を絞めた。
もう一人が地面に押さえつけて二人が両側から引っ張る。
たぶん首の骨が折れたと思うけどそこまでの画質はない。
ただ殺人者の顔は多少わかるって程度だろう。
視聴者数がいきなり増えた。
『もうやだこの埼玉!』
『どうしてかなたくんがライブすると人が死ぬのおおおおおお!』
今回はぼくが誘導したけどね。
下の警官どもは誰もスマホを見てない。
すべてライブ撮影されてるなんて思ってないだろう。
葛西が動かなくなると警官たちは金を引ったくって去って行った。
「はい埼玉県警による殺人ショーでした。見つかる前に逃げるんでシーユー」
これでネットは大騒ぎ。
SNSのトレンドワードに躍り出る。
なあにそれでもネットを敵視してる地上波じゃ報道もされない。
火事の件すら報道されるかどうか?
確実に顧客の中にタレントがいるだろうし。
うちのカジノにだって有名お笑い芸人がいるし。
「兄貴……お前絶対にろくな死に方しねえぞ……」
「知ってる。あ、君らも黙ってた方がいいよ。警察が殺しに来るから。大丈夫大丈夫、ぼくらにまではたどり着けないって」
種の残りを別の反社の事務所に送りつけたしね。
さあ、殺し合え。
みんな死ね。
次の人は言わず、数時間後にはネットは大騒ぎになった。
苦情の電話が鳴り止まず。
知事の責任を問う声が強くなる。
ぼくはと言うと警察にお呼ばれしてた。
何度も何度も。
たぶん違法なんだろうけど世が明けるまで問い詰められる。
でもぼくの答えは知らぬ存ぜぬ。
Vログ撮ってたらたまたま映った。
なんの証拠もない。
もちろん取調室でぼくを殺すって手はある。
でもそのリスクを取れるか?
仮にぼくを黙らせても犯人が別の人間だったら?
そういうことさ。
「お前をぜったいに捕まえてやる」
少年課の若い警察官がぼくに怒鳴った。
「敵を間違えないように」
ぼくに殺人の罪を被せるのにも準備不足だ。
警察の取れる手段は限られてる。
発覚する前に殺人に関与した全員が自殺するしかない。
この場合の「自殺」ってのは自殺に見せかけて殺すって意味だ。
それに誓って言うが、ぼくがここで殺されてもいい。
それは計画の一部だ。
ぼくが警察署内で死ねば、ごまかすにも限界があるだろう。
少なくともタケルと真田は助かる。
白石さんの件が解決しないのは悲しいが、人生に思い通りになることは少ない。
ネットの名探偵にまかせよう。
「クソ!」
取り調べの警察官が机を蹴った。
「始末するならどうぞ」
「どうせ始末されたときのために保険をかけてやがるんだろ?」
「さあ?」
どうでもいい。
ぼくをここで殺せば、少なくとも判定勝ちだ。
殺すなら殺せばいい。
「クソ!」
もう一度壁を蹴る。
「帰れ!」
ということで帰ることになった。
小さな勝利で終える気はない。
データを解析すれば事件の概要がわかるだろう。
たぶん、ぼくはどこかの段階で殺されるだろうけどね。




