第二話 ぼくらはアオハルを取り戻す
クラスのほとんどが志望校のランクを落とす。
ぼくらの学校は底辺の動物園みたいな学校ではない。
かといって進学校と自分で言えるほどの学校ではない。
ごく一部の上澄みが地元の国立へ。
他は東京の名門私学狙いって感じだ。なお合格するとは言ってない。
たいていは聞いたことはあるけどキャンパスの場所を知らない大学へご招待だ。
高校入学時の偏差値から-10が大学進学時の偏差値。それが現実なのである。
そりゃそうか、高校生の4割は就職で彼らの偏差値は大学入試じゃ反映されないのだ。
そこからの人生のキャリア形成はよくわからない。
県庁か市役所の職員が最上のコースみたい。
人生のイメージを想像できない。
他の連中も同じだ。
大学でなにを勉強したいと問われるが、勉強自体したくない。
テキトーなサークルに入って彼女作りたい以外のビジョンはない。
冷静に考えれば、高校生の時点で彼女がいない時点で楽しそうな大学生活への適性は低いと言わざる……死ね。
彼女も同じだろう。
陰キャの王たる文芸部。
そのウルトラド陰キャマザファッカばーかばーかウンコ部活の女子。
ラノベに出てくるような美少女?
ふぁああああああああああああああああっく!
死ね! みんな死ね!
ぼくと同じ陰のものだ。
眼鏡をかけてて長い髪を後ろで束ねてる痩せ気味の女子。
話しかけると「ふへへ」って笑うタイプの女子だ。
名前は真田志保さん。
彼女ではない。
だが友人としては上位の存在だ。
ぼくらは共通するものがあった。
創作だ。
面接官に「三年間なにをがんばりましたか?」と問われたら。
ぼくらは「三年間ライトノベルコンテストに片っ端から応募しましたが二次選考止まりでした」って答えるだろう。
すると面接官は「ぷッ! ド陰キャきもッ!」って心の中で笑うんだ。
絶対そうに違いない。
なぜ運動部の努力は過剰にもてはやされるのに、文化部の努力は達成せねば評価の対象にもならないのだろうか?
たとえ達成したとしても陰キャを差し引いて加点されるだけだ。死ね。
そんなぼくらは人生のドツボにハマっていた。
「ふ、ふへへへへ。やっぱり推薦ダメだった」
彼女が上目づかいで笑いながら言った。
「同じく。というかクラスの大半がそんな感じ」
野球部のいじめ動画流出と盗撮がトドメだった。
ぼくらの推薦は泡と消えた。
おごる平家は久しからず。
一部の調子に乗ったファッキンマザファッカ野郎と、一度もおごったことのないその他モブも巻き添えで藻屑と消える壇ノ浦。
琵琶法師の音だけが虚しく響く。イズバーン。
我らは泡へと消える人魚姫。
ああ、青春は野球部に輝く。俺たちの人生を踏み台にして。
「つらいぜセニョリータ」
「ふ、ふへへへへ。本当にどうしよう?」
知らない。
この運命を知ってたらもっと三年間で努力したはずだ。
もう取り返しなどつかない。
Fランクの大学すら無理かもしれない。
「死刑判決を待つ囚人の気分。高校三年間をテキトーに流した罪悪感も含めて」
「ふへへへ……ふへぇ……」
話は終わり。
十年落ちのノートパソコンで小説を書く。
父親が押しつけたPCにLinuxを入れた。
こんなのでもネットのワードプロセッサを使えば問題なく執筆できる。
父親との関係、最悪さ。
それでも有名ソフトの形式で吐き出せば問題なく使える。
プログラムは中学で卒業した。
小学生のときに必死になって覚えたプログラム言語がいつの間にか非推奨なんて、世の中は残酷だ。
彼女は安心の日本メーカー製の最新機種。
軽くて速い。
ぼくらはこんな危険な状態でも小説を執筆してた。
少しでも受験勉強をすべきなのはわかってる。
だけど学校の連中の大半がこんな感じだ。
なんと表現すればいいだろうか。
人生をぶん投げた。
勉強に打ち込むのは一部のストレス耐性のある勇者だけ。
ほとんどは「ええじゃないか」と踊ることを選んだのである。
具体的には授業のボイコット……とはいえもう授業はほとんどしてないのと同じだが。
とはいえ、ほとんどの生徒は今さら不良になる気力の元気もない。
ぼくもそうだ。
ただのモブ男子でしかない。
だから現実にわからされる前のモラトリアムを真田志保と最後の執筆に捧げることにした。
「あー! 自分で書いてる小説のように努力なしで女の子にチヤホヤされる高校生活が送りたかった!」
本音を叫ぶ。
「わわわわ、私も。イケメン男子に取り合いされる高校生活を送りたかった……えへへへへへ」
なお、ぼくたち二人とも「どんな異性が好きなの?」と言われても答えられない程度に経験がない。
つまりリアルな異性を創作に落とし込むことは不可能である。
「デートとかしてみたかった……」
「え、えへへへへへ。そ、それなら……私と……する?」
「する!」
「え、えへへへへ、なんちゃって……え!?」
「真田! いまから高校生活を楽しもう!」
残り少ない高校生活を楽しむことにしたのだ。
ぼくはかなり浮かれていた。
「じゃ、帰ろ!」
「え? え? え?」
「遊びに行こう!」
ああ……なんということだろうか。
これが残り少ない高校生活……地獄のツアーのはじまりだとは知らずに浮かれてたのだ。
もう少し、もう少しだけ、ぼくの好奇心が薄ければ……あんなことにはならなかったのに!




