第十七話 安城さん
真田と勉強しながらすごす。
穏やかな日々……と言いたいところだが、政治家や財界人が相次いでなくなった。
事故に心臓発作に脳出血に……。
誰もが暗殺だと騒いだ。
実際演説中に襲われて死んだ議員や不自然なタイミングでホームに飛び込んだ官僚もいた。
ぼくの言葉がもっと偉い人に届いたのかもしれない。
だけど真相は藪の中。
別に権力者に都合の悪いブツを隠したいからじゃない。
権力者の方を始末した方が騒動を治めるには簡単で、速くて、コスパもいいだけだ。
この日本には替えの効かない人間なんぞいないのである。
だけど問題が一つ。
どさくさ紛れに連続殺人をやってる犯人だ。
そうじゃないのは社会の歯車と歯車にすらなれなかったぼくらだけである。
ぼくや真田を殺す必要はない。
あとは事故のどさくさに人を殺し回ってるやつ。
それを捕まえれば……。
別に捕まえなくても自分が犯人じゃないことが証明できればいいか。
謎はトイレで見つかった遺体と長瀬のアホを殺したやつ。
報道によるとトイレのバラバラ死体は死後数カ月経過したもの。
だから臭わなかったようだ。
臭わなかった?
つまり消臭剤?
いや違う。
おそらく血抜きと乾燥処理をしたんだろう。
どこで?
地元は東京23区のすぐ近く。住宅密集地だ。
山なんてない。
川もすぐ横に公立の小中学校があるほどだ。
人のいない場所は……あるにはある。
解体工をしていた外国人の資材置き場、ヤードだ。
そのヤードであるが、管理が厳しくなって逃げた跡地がいくつもある。
でもその程度は警察も把握してるだろう。
所有者がわかってる物件は見て回ってるんじゃないか?
だが所有者がわからず宙に浮いた物件はいくつかあるはずだ。
そこまではわかるんだけどね~。
燻製にしたのか、普通に乾燥させたのか?
内臓と血、それに骨をどうしたのかが問題だろう。
それとバラバラ遺体が誰かって問題もある。
まずはミステリー脳で考えるか。
「ねえ真田さん。現在不登校なのは誰かな?」
「がががががが、学年の半分は不登校だよ」
冷静に考えたら当たり前であった。
こんな学校に見切りをつけるのは当たり前だ。
そう……ぼくは家に居場所がないから学校に来てるだけだ。
ぼくはそれが普通だと思ってるが、それは他人から見れば異常なのだ。
普通の家なら学校になんか来させない。
見切りをつけて一般入試で一発逆転を狙うしかない。
関東から出れば悪名も響いてないかもしれない。
比較的近い北関東や東海地方でも大丈夫かもしれない。
一人暮らしの資金の問題はあるが、浪人よりはマシという判断は理解の範疇である。
私学しか間に合わないけどね。
「事件の前から不登校は?」
高校生だから可能性は低いだろうけどね。
「……安城さん」
やはりいたか。
「たぶん安城さんは野球部の被害者だ」
「うううううう、うんわかった。しらっちゃんと家に行ってみる」
「頼んだ……ちょっと女の子だけだと怖いな。ぼくが送迎……」
考え直す。
タケルに電話する。
「どうした兄貴?」
「あのさー、タケルさー、白石さんと真田の護衛頼んでいい? ぼくだけじゃ攻撃力が足りない」
ぼくの腕っ節じゃ護衛にならない。
「兄貴は?」
「家の前までね。訪問先の子は野球部に……」
「あー……わかった。最後まで言わなくていい。いまから向かう」
しばらくすると、いつもの頭悪そうなバイクじゃなく自転車に乗ってタケルがやって来た。
金色に塗ろうとして失敗したらしく、中途半端にスプレーしてある。
おそらくスプレーの使い方を知らなかったのだろう。
一本使ってあきらめた感が伝わってくる。
工業なめんな!
「おう兄貴、駐輪場に止めるぞ」
「適当にどうぞ」
汚い塗装のチャリには、赤いペンキで『天上天下唯我独尊』と書かれている。
頭悪そうだ。見てるだけでIQが下がってくのがわかる。
なおタケルの学校の名前が書いてある。
おそらく誰も盗まないだろう。
でも、いまやうちの学校の方が県のバカ校の代名詞なんだよね。
埼玉のバカオブバカ。うぇーい!
タケルはいつもの特攻服だ。
近く立たないでくれるかな?
「兄貴、お前……心の中で罵倒してるだろ?」
「シテナイヨ」
「嘘つくんじゃねえ! 口開けば悪口しか出てこないヤツがよぉ!」
「違うタケル! ぼくは悪口ばかり言ってるんじゃない! 両親のせいで悪口でしかコミュニケーションを取れないだけだ! 悪いのはすべて両親の虐待のせい……」
「うるせえ黙れ」
安全靴でスネを蹴られた。
ぼく悶絶。
真田はそれを見てずっと笑ってる。
マイハニー。君が喜んでくれて芸人冥利に尽きる思いに御座候……。
「うふふふ。仲がいいんだね」
「真田さんもウザかったらこいつ殴っていいからね」
「ぼくウザくないもん!」
そんなやりとりをしてると白石さんもやってきた。
「安城さんの様子見に行くって?」
タケルが答える。
「ああ。野球部の被害に遭ってるだろうから俺たちは送迎な。ここらは物騒だからな」
「あと住所知らない」
タケルにもう一回蹴られた。痛い!
「お前はいつも他人まかせじゃねえか!」
「えー……白石さん知ってるでしょ?」
「う、うん。知ってるけど」
「じゃ、行こうか」
バスに乗って15分。
鉄道だと行くのが大変な隣の市に安城さんの家はある。
なんで隣の市なのに西日暮里から舎人ライナーに乗り換えなきゃならん……。
一時間かかるじゃねえか。
安城さんの住んでるマンションはオートロックだった。
入り口で部屋番号を押すと母親と思われる女性が出た。
「あの、同じ学校の白石と申しますが……」
ここで女子と別れる。
タケルとマンション前の広場で話す。
「タケル……お前、白石さんのどこが好きなの?」
「いきなり距離感バグッた会話やめろ」
ちッ!
このケチが!
「それでよ~。兄貴これからどうするんだ?」
「犯人見つけて……」
「そっちじゃねえ。大学どうすんだ?」
「あー……実はさ、二部受けようと思っててさ」
「二部って?」
「夜学。ほら、一応これでも就職したわけでさ。昼間小説書いて、夜学校行こうかなと」
「本音は?」
「小説でダメなら在学中に就職しようかと……あと学費が安い」
「兄貴が小細工しはじめたなら大丈夫だろ。安心した。ま、がんばれや」
なんだその変な信頼は……まあいいけどさ。
しばらく待つと二人が帰ってくる。
ずいぶん速いな……。
真田があわてた様子で走ってくる。
「ふふふふふふ、二人ともたいへん! 安城さん行方不明なんだって!」
はい?




