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Last note (①所長と助手)

12.

バタム、、

助手が窓を閉じ、鍵をかける。

そして、巻き上げられていたカーテンを下ろす。

すでに日は落ちていた。

部屋の中は薄暗い。

部屋に灯りは無かった。

それでも、助手は部屋の中を窓から窓へ移動し、所長は紙に文字を書いていた。

二人とも、夜目が効くらしい。

四つの内、三つの窓が閉じられ、カーテンが下ろされた。

薄暗さを通り越し、部屋の中はほとんど暗闇だ。

「うん」

紙の上を滑るペンの音が止んだ。

所長はまだ閉じられていない窓を見る。

窓の向こうは微かに明るい。

縦長の窓を斜めに裂くように、光の帯が見える。

夜の空に、朧に輝く光の帯──


「どうだったかな、本物の英雄は?」

所長が小さく呟く。

「あれ程とは思ってませんでした、怖ろしくて堪りませでしたよ、ちゃんと事前に教えておいて下さい」

助手は耳も良いらしい。

バタム…、シャシャジャラ。

最後の窓が閉じられ、カーテンが下ろされた。

部屋は完全な暗闇になった。

それでも、普通に会話は続いている。

「所長が口を押さえ、英雄が少し心配された時、今、英雄に攻撃するならどうするか?、と、英雄に僅かな気持ちを向けました、その瞬間、英雄がこちらを向き、笑顔でウインクを返されました」

「ああ、あの時、そんな事やってたのか、こっちはトラウマフラッシュバックしてたのに」

「血液が凍るかと思いました、反射的に窓から逃げ出しそうでしたが、どうにか我慢しました、自分に自信を無くしましたよ」

「いやいや、君は強いよ、自信を持っていい、僕が用心棒についてもらってるくらいだからね…、君に会う前、何十年も世界をまわっていたからね、この世界の強さのレベルは、ある程度は知ってる」

「はあ…」

「この国の最強レベルとやっても、君なら勝負になるし、それに、いざとなったら、君は走って逃げ延びる事が出来る」

「はい」

「だけど、英雄と呼ばれる者達は、無理だ、まして、攻撃特化型の花の()の英雄なんて、僕達が気付かない内に、首を落とす事だって片手間でやってしまうだろうね」

「怖ろしいですねえ」

「そう言えば、悪かったね、英雄の香水は、君にはきつ過ぎただろう?」

「それは自分の体質の問題なので、お気になさらず、それに、多少は臭覚のコントロールも出来ますから」

「なら良かった、随分久しぶりの香りだったけど、記憶と香りは強く結びつくって、あれは本当だね、あの香りと殺気の二重の恐怖で、咄嗟に命乞いしていたよ」

「自分が盾になって前に出ようとした時には、すでに所長は膝をついてました、本来なら、前にいなければ、護衛にはならないのに…、申し訳ありません」

「いいよ、英雄が相手じゃ、護衛も何もないよ…、結果的に、勇者についての現場の話が聞けて、とても有意義だったよ」

「今日のお話は、初めて聞く話ばかりでした」

「うん?、そうだったね、君に会ったのは、この本を書いた後だったしね、あ、これ本棚に戻しといて」

「はい」

暗闇の中、助手は差し出された本を受け取り、本棚に戻した。

助手が動くと、部屋の空気が揺れ、残った香水の残滓が香る。


「あんなにお話しされて、良かったのですか?」

「何がだい?」

「所長が勇者の研究をしてるのは、二度と勇者に関わらない為だと、前に伺ってますが」

「ああ、そう言う事ね、確かに、英雄は僕と正反対で勇者の事を想っているね、しかし、僕は探偵だからね、依頼者に嘘はつけないし、推理を話さずにはいられないんだよ」

「なるほど」

「ところで、助手君は香水の作り方って知ってるかい?」

「いえ、知りません、たくさんの花を搾ったりするんでしょうか?」

「ああ、まあ、そうだね、抽出方法が何種類かあるんだけど、その花の香りを濃縮した液を、揮発する油と混ぜる」

「はい」

「で、ただ、花の香りだけでは、香水の香りにはならない、一般的に排泄物や汚物と言われる匂いの成分を、少しだけ、ほんの少しだけ入れる、すると、奥深い、魅力的で官能的な香りになる」

「はあ、なるほど、そうなんですね」

「そう言う事なんだよ」

ギシ

暗闇の中、二人が動く微かな音が移動する。

「明日もまだ、この香りは残ってるだろうね」

「はい」

ギィィ

「あの、もう一つ良いですか?」

「よっぽど英雄は、君の刺激になったんだね、なんだい?」

「所長は勇者の研究をされてますが、そもそも、勇者が現れる原因の、魔王というのは、何なんですか?」

「え?」

「え?」

「ああ、そうだね、魔王…、魔王が発生するから、勇者が現れる…、うん、そうだね…」

「……」

「何故だろう?、今まで、魔王の事を、ほとんど考えた事がなかった、そうか、魔王の事も知らないと……」

バタン、ガヂャ、

暗闇の中、ドアを閉じる音と、鍵を閉める音が響いた。

足音だけは僅かも聞こえない。

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