紫の髪の少女(3)
戦闘を終えた四人は、組織本部の報告室に呼び出されていた。
白い壁と蛍光灯の光に満たされた無機質な空間。
冷房の風が強すぎるせいで、やけに静脈の鼓動まで際立って感じられる。
長机の向こうに座った上司は、書類をぱらぱらとめくりながら冷ややかに言い放った。
「……映像は確認した。魔物の撃退自体に問題はない」
眼鏡の奥の視線が、一点に突き刺さる。
「だが——ニシナ。君の能力は危険すぎる。味方を巻き込むリスクが高すぎる」
名を呼ばれた少女は、椅子の上で小さく体を縮めた。
長い前髪の奥で震えながら、押し出すように声を絞る。
「……ごめんなさい。……抑えたつもりだったのに……」
重苦しい空気の中で、ネツレイが冷静に口を開いた。
「事実として、彼女の石化で被害が出かけた。今後は制御訓練が必須だな」
声音は淡々としているが、責める響きはなく、ただ現実を突きつけているだけだった。
「まあまあ」
腕を組んだキサラギが、いつもの調子で口を挟む。
「俺は逆に頼もしいと思ったけどな。あんな数を一瞬で止められるなんて、普通できないだろ」
「……でも、そのせいで……」
ニシナは俯き、細い指を膝の上で必死に握りしめた。
長い前髪の隙間から覗いた瞳は、すでに涙でにじんでいる。
「……わたし……一緒にいたい。だから……」
震える声とともに、彼女は隣に座るキサラギの腕へ顔を寄せる。
そして、溢れた雫を意図的に——石化しかけていた彼の腕へ零した。
ぽたり、と。
静かな音が響き、白く硬直しかけた皮膚に涙が染み込む。
すると、じわじわと色が戻り、冷たい石の感触は消え、温かな血流が戻ってきた。
「……っ!?」
キサラギが目を見開く。
「治ってる……! お前、わざと……?」
ニシナは唇を噛みしめ、震える肩を押さえながらも頷いた。
「……巻き込みたくないの。誰も……傷つけたくない……」
ネツレイが興味深げに眼鏡の奥を光らせ、メモを走らせる。
「……石化が“死”に傾かせる力なら、涙は逆に“生”を呼び戻す……。表裏一体の能力か」
ナヅキは顔を背け、吐き捨てるように呟いた。
「……だったら、なおさらちゃんと使え。助けられる方法があるなら……無駄に泣いてんじゃねぇ」
キサラギは腕を軽く振りながら、口元に笑みを浮かべる。
「いいね、それ。怖いけど、同時に頼もしい。……面白いチームになってきたな」
報告室に重い沈黙が落ちる。
けれどその底で、小さな希望の芽が確かに息づき始めていた。




