エピローグ(上)
翌朝。
ネツレイは微かな陽光に目を細めながら、布団から身を起こした。
まだ夜の名残を含んだ空気はひんやりとして、窓の外では鳥の声が遠く響いている。
隣を見やると、ニシナとキサラギはまだ深い眠りの中にいた。
穏やかな寝息と、かすかに揺れる布団。
二人の無防備な寝顔を前にして、ネツレイは一瞬だけ安堵を覚える。
けれど、その安らぎの中に——ひとつだけ欠けたものがあった。
視線を戻した先。
昨日までは存在しなかったはずの、一本の長葱剣が壁際に立てかけられていた。
まるで「ここが当然の居場所だ」と言うかのように。
「……ナヅキ……」
その名を呟いた瞬間、胸の奥が熱く締めつけられた。
ネツレイはそっと剣を手に取り、布団の中で抱きしめる。
軽口も、笑い声も、無茶ばかりの戦い方も——もう返ってこない。
「……やっと、わかったよ。
お前、本当に……もういないんだな……」
声は震え、頬を伝う涙が枕を濡らす。
こんな情けない姿、仲間には絶対見せられない。
彼らがまだ眠っていることが、唯一の救いだった。
やがてネツレイは、深く息を吸って涙を拭った。
布団から抜け出し、ゆっくりと立ち上がる。
「……情けねぇ顔なんて、見せられねぇよな。
あいつが見てたら……絶対笑いやがる」
長葱剣を腰に帯び、背筋を伸ばす。
隣ではまだニシナとキサラギが眠り続けていた。
彼らの無事な寝顔を見つめ、ネツレイはそっと部屋を出る準備を始める。
——魔物はまだ消えていない。
人知れず人々を蝕む闇は残り、戦いの日々は続いていく。
ネツレイは一度だけ剣に視線を落とし、静かに呟いた。
「……ありがとな。これからも一緒に戦ってくれ」
その声は眠る仲間たちには届かず、静かな部屋の空気に溶けていった。




