対等の契約(3)
緑光が夜の森を覆い尽くしていた。
芽吹きは瞬く間に広がり、焼け焦げた大地に若草が生え、倒れた木々の幹に新しい葉が芽吹く。
長葱剣を握るナヅキの体からは、もはや人間の枠を超えた膨大な生命力が迸っていた。
「これが……俺とサラダの、“対等の契約”だ!」
その声は、轟く竜の咆哮すら掻き消すほどに強く響いた。
魔王の竜眼がわずかに揺らぎ、畏怖の影を宿す。
しかし——。
「ナヅキさん……! それ以上は……無茶です……!!」
ニシナが膝をつき、必死に声を張り上げる。
彼女の蛇の髪も震え、目に涙を浮かべながら彼を見つめていた。
「どこにそんな力がまだ残っていたんだ……!?」
キサラギは目を見開き、火花の天使ですら言葉を失うほどの光景に息を呑む。
燃え尽きることしか知らない花火にとって、それは理解の外にある“永続の光”だった。
「待て……!」
ネツレイが叫んだ。スティレットを杖のように突き立て、血に濡れた顔でナヅキを睨む。
「今の状態じゃ、その膨大な力は体が耐えきれなくなる……! 魂ごと、吹き飛ぶぞ!」
だがナヅキは笑った。
額に汗をにじませながらも、目は迷いなく前を見据えていた。
「平気だって。俺はもう——“差し出す”んじゃねぇ。
俺の魂は、この世界に開くんだ。サラダと一緒に、永遠に生き続ける!」
その瞬間、サラダの天使が完全に重なり合った。
淡い黄緑の翼は天空へ伸び、夜空そのものを覆い尽くすほど巨大に広がる。
芽吹きは森から大地へ、さらに空へと広がり、命の循環そのものが解き放たれていく。
『——ナヅキ。お前の魂は、もはや“個”ではない。大地と命の循環そのものだ。』
豊穣の天使の声が、ナヅキ自身の声と重なった。
「これが……俺たちの選んだ道だ!
奪われるための魂じゃねぇ。生きて、死んで、それでも共にあり続ける魂だ!!」
彼が一歩踏み出すたび、足元の土から緑が芽吹き、踏みしめた大地が瑞々しい命へと変わっていく。
長葱剣を振り抜くと、刃に沿って走った光が大地を裂き、炎に焼かれた森を一瞬で緑野へと変貌させた。
黒竜は紅蓮の吐息を吐き出す。だがそれすら、芽吹いた若葉に吸い取られるように鎮まっていく。
灼熱と再生が拮抗し、夜空は光と影に二分された。
「……ありえぬ」
魔王の竜眼に、わずかな揺らぎが生まれた。
「契約は奪い合いの理……それを破ることなど——」
ナヅキは振り返らない。
仲間を背に、大地と共鳴するかのように立ち尽くす。
その姿は、もはやただの契約者ではなかった。
緑光は森を超え、空へと伸びていく。
それは「生と死を奪わず繋ぐ」新たな理の誕生を告げるかのようだった。




