対等の契約(1)
竜の瞳に、冷たい侮蔑の光が宿る。
「愚か者め。くだらぬものを持ち上げ、命を散らす……その醜態すらも、我を強くする糧にすぎん」
魔王の口が大きく開かれた。次の瞬間、灼熱の奔流が夜空を裂き、森そのものを焼き尽くすように襲いかかってきた。
「くるぞッ!!」
キサラギが叫び、指を弾く。花火の天使の光弾が炸裂し、紅蓮の炎とぶつかり合いながら閃光の壁を作る。
「……っ、まだ足りない!」
ニシナが髪をうねらせ、蛇のように広がった束が炎に絡みつく。石化の力が熱に押されながらも働き、火炎の奔流を岩の壁に変えていく。
だが、それでも炎は押し寄せる。
「クソッ……止まりきらねぇ!」
ネツレイがスティレットを逆手に構え、刃先から胞子のような毒の霧を放った。灼熱に焼かれながらも、それは炎を鈍らせ、仲間を覆う幕となる。
「もう一押しだ……! サラダァ!!」
ナヅキが叫ぶ。サラダの天使がその背に降り立ち、レタスのような翼を大きく広げる。瑞々しい葉が幾重にも重なり、緑の障壁となって仲間を包み込んだ。
炎がぶつかり、轟音が夜を切り裂く。
爆発のような衝撃に、四人は吹き飛ばされそうになりながらも必死に踏みとどまった。
「……っはぁ……っ……」
ネツレイが荒い息をつき、血に濡れた肩を押さえる。
「……死ぬかと思った……」
「けど……まだ、生きてる……!」
ナヅキが笑みを浮かべ、ぐっと剣を構え直す。
「くだらないもんでも……俺たちが信じてれば、テメェの火だって止められる!」
炎の煙を払い、再び立ち上がる4人。
その姿を見て、魔王は初めて低く唸った。
「……しぶとい」
黒竜の咆哮が、夜の森を再び揺るがした。
大地が裂け、樹木がなぎ倒される中、四人は限界に近い体で必死に踏みとどまっていた。
「……はぁっ、はぁっ……このままじゃ……」
ニシナが膝をつき、震える手で髪を支えた。石化の力は尽きかけ、もはや影を封じきれない。
「もう……時間を稼ぐしかねぇ……!」
ネツレイが血に濡れた腕でスティレットを振るうが、その刃も鈍く光るだけだった。
そして——。
「……俺がやる」
キサラギがゆっくりと立ち上がり、花火の天使を呼び寄せた。




