魔王の顕現(2)
黒竜と化した魔王の咆哮が、夜の森を揺るがした。
巨躯が枝をへし折り、大地を抉るたび、周囲の木々は燃え、空気は灼けた刃となる。
その影に、紫と橙の堕天使はすでに姿を見せなかった。
敗れた彼らは城奥に取り残され、二度と戦線に戻ることはない。
——にもかかわらず、魔王の声は冷たく森に響いた。
「駒は期待はずれだな。所詮はその程度だということか」
その声音には、かつての情の欠片もなかった。
紫と橙の存在は、最初から expendable(使い捨て)にすぎなかったのだ。
「仲間を……切り捨てた、だと……」
ナヅキは歯を食いしばり、剣を強く握った。
「テメェにだけは、絶対に負けられねぇ!」
ネツレイが舌打ちしながらも、鋭い視線をナヅキと重ねる。
「同感だな。俺たちは違う。背中を預け合う仲間がいる」
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一方その頃、城の周囲では無数の一般堕天使がうごめいていた。
黒竜の咆哮に呼応するように闇が膨れ、無数の翼が夜を覆う。
「ったく、数が減るどころか……まだまだ湧いてくるのね!」
スズナが短く息を吐き、隕石の光を宿した槍を振りかざした。
星の天使が輝き、夜空に瞬く光点がいくつも生まれる。
次の瞬間、巨大な火球が尾を引いて堕天使の群れへと降り注いだ。
轟音と閃光が重なり、森の地面が砕け、黒い羽根が焼き散る。
「これでも食らいなさいよ! こっちは遠慮なんてしないんだから!」
焦げた大地に立つスズナの額には汗がにじむ。
だがその瞳は揺るがず、槍を構えた姿は強さに満ちていた。
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「スズナ、下がれ!」
背後からマテラの声が飛ぶ。
彼の杖から奔った雷光が、縦横無尽に大地を走った。
雷の天使の力が、まるで天を割るかのような轟きを伴い、堕天使たちを一瞬で炭へと変える。
稲妻の閃光は森の枝を裂き、群れの進軍を粉砕していった。
「ナヅキたちが魔王に集中できるよう、ここで押さえるぞ!」
マテラは鋭く叫び、再び雷を纏わせた杖を振り下ろす。
「わかってる! 隕石でまとめて吹き飛ばす!」
スズナが応じ、再び夜空に星々を呼び込む。
稲妻と隕石——二つの力が交錯し、森を覆う堕天使の群れを容赦なく薙ぎ払った。
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森の奥、魔王の黒き巨影と対峙するナヅキたち。
その背後では、雷と隕石の嵐が絶え間なく轟き、無数の敵を消し飛ばしていた。
誰の目にも映らずとも、確かにそこには——仲間を護るための、もうひとつの戦いがあった。
スズナは槍を肩に担ぎ、額の汗をぬぐいながら鼻を鳴らす。
「……まったく、アイツらはいいとこ取りばっか。
いいわ、魔王ぶっ倒したら——ナヅキ、あんたに骨の髄まで感謝させてやるんだから!」
その横顔は、炎に照らされながらもどこか誇らしげに輝いていた。




