魔王の顕現(1)
轟音とともに、玉座の間に静寂が戻った。
紫と橙の堕天使は床に崩れ落ち、もはや動かない。
だが——誰ひとり気を緩めてはいなかった。
重厚な扉の奥から、低く響く声が広間を震わせる。
「……ふむ。よくぞ我が眷属を退けたな」
闇を裂いて、ゆらりと影が姿を現した。
角を額に戴き、八重歯を覗かせる美貌の青年。
長い黒髪は半ばで乱れ、紫水晶のような瞳が四人を射抜く。
ただ人の姿であるにもかかわらず、その場にいるだけで空気が重く押し潰されるようだった。
「……これが……魔王……」
ニシナが小さく呟き、思わず後ずさる。
魔王は愉快そうに八重歯を光らせ、微笑んだ。
「勇ましい顔だな。だが知っているか? “仲間”とやらに縋る者ほど……最も哀れに砕け散る」
魔王が低く呟いた次の瞬間、その身体が膨張し、黒き竜の姿へと変貌した。
天井を突き破らんばかりの巨体が広間を圧迫し、四人は息を呑む。だが竜は、城そのものを崩すことを避けるかのように翼をたたみ、巨大な尾で床を薙いだ。
「外で——存分に焼き尽くしてやろう」
その尾の一撃で広間の扉が粉砕され、嵐のような暴風が吹き込んだ。
四人はその風に押し流されるようにして城外へと追い出される。
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外は夜の森だった。
濃い瘴気に覆われ、木々は黒く枯れ、土は裂けている。魔王の咆哮ひとつで枝葉が震え、星空さえも霞んで見えた。
「ちっ……外に誘い出したってわけか」
ネツレイが歯噛みし、スティレットを握り直す。
「ここなら——存分に暴れられる」
巨竜は口を開き、紅蓮の炎を吐き出した。
「散開しろッ!」
キサラギの叫びと同時に、四人はそれぞれの方向へ飛び退く。
炎の奔流が森を薙ぎ、木々が一瞬で黒炭と化した。
「ぐぅっ……おもっ……!」
炎の余波をまともに受けたナヅキが剣で受け止めるも、膝が軋む。
それでも彼は笑みを崩さずに叫んだ。
「ここなら遠慮はいらねぇな! 派手にやってやろうぜ!」
キサラギが閃光を放ち、夜空に花火が散るような光弾が爆ぜた。
ニシナが髪をうねらせ、竜の脚へと絡め取る。
ネツレイは獲物の隙を狙い、銀の刃を閃かせて突き込む。
だが魔王は楽しげに低く笑った。
「よい。よいぞ……その必死さ。その無力さ。すべてが我を肥やす」
翼が広がり、灼熱と暴風が混じり合い、夜の森が地獄と化す。
それでも四人は互いの背を見つめ、武器を構えた。
「まだ……いける!」
ナヅキが吠える。
「ここで引いたら意味がねぇ! みんなを守るって決めたんだ!」
闇と炎の渦の中で、彼らの戦いは幕を開けた。




