紫と橙の罠(1)
魔王の居城、その玉座前。
高い天井から垂れる漆黒の幕のような影が揺れ、紫と橙の二体の堕天使が左右に立ちはだかっていた。
「ここから先は——通さない」
紫堕天使が冷笑すると同時に、漆黒の翼から光の粒子が散った。
「っ……!」
ナヅキの視界がぐにゃりと歪む。
次の瞬間、仲間の三人が力なく膝を折り、静かにその場へ崩れ落ちた。
「ニシナ! キサラギ! ネツレイ!!」
呼びかけても返事はない。彼らの瞳は閉ざされ、安らかな寝息すら聞こえる。紫堕天使の幻影が、仲間の意識を夢の中に閉じ込めていた。
「兄さまの影が心を縛る。なら、僕の糸で体を操れば——」
橙堕天使が細い指を動かした瞬間、空中から無数の橙色の糸が垂れ下がり、仲間の身体へ絡みついた。
「……っな……!」
立ち上がったキサラギが、無機質な瞳で光弾を組み上げる。
ネツレイがスティレットを構え、ニシナの髪が蛇のように伸びる。
「おいおい、嘘だろ……!?」
ナヅキは目を見開く。仲間たちが——自分へ刃を向けてきた。
「ほら、どうした?」
橙堕天使の声が冷たく響く。
「仲間には攻撃できないだろ? その優しさが、お前を殺す」
「クソがッ……!」
ナヅキは長葱剣を振るい、迫りくる光弾を紙一重で避ける。背後からはスティレットの刃が風を裂き、髪の鞭が足を狙う。
仲間たちの容赦ない連携攻撃。汗が飛び散り、呼吸が荒れる。
だがナヅキは歯を食いしばった。
「俺は……仲間を傷つけたくねぇ……! 絶対に諦めねぇぞ!」
叫びながら、彼は必死に声を張り上げる。
「キサラギ! お前は俺に言ったよな、“背中預けられる仲間がいる”って! ——忘れたのかよ!」
「ニシナ! お前はここにいるだけでいいって笑ってたじゃねぇか! 俺はその笑顔を見て戦ってんだ!」
「ネツレイ! 家族守るために命張るって言ったよな! お前がこんな操り人形でいいわけねぇだろ!」
必死の呼びかけは、冷笑に掻き消される。
「無駄だ」紫堕天使が冷たく言い放つ。
「僕たち兄弟の連携は完璧だ。お前一人では抗えぬ」
それでもナヅキは諦めなかった。
幾度も斬りかかる糸を避け、跳ね返り、転がりながら叫び続ける。身体は無数の掠り傷で痛みを訴える。それでも、その目の光は一度も濁らない。
「……見えた」
荒い息の中、ナヅキの瞳が鋭さを帯びる。
糸の軌跡が、ほんの一瞬——呼吸の合間に揺らぐ。橙堕天使の指先と、仲間の動きが完全に同期していないことに気づいたのだ。
「なるほどな……! 操ってるつもりでも、完全じゃねぇ……!」
ナヅキは長葱剣を構え直す。
仲間を傷つけず、糸だけを断ち切る——突破口が見え始めていた。




