影の檻を裂く(3)
断崖を渡り切った先、黒紫の霧が流れる平地に四人は足を止めた。
魔王の居城は目前。城壁は禍々しい瘴気を垂らし、空は常に雷光に照らされていた。
——それでも。
その場に腰を下ろし、彼らは最後の準備を始めた。
---
「……さっきのが最後の腹ごしらえかもな」
ナヅキが腹をさすり、名残惜しそうに指をぺろりと舐めた。衣の香ばしい匂いがまだ指先に残っている気がした。
「もう残ってねぇよ。次は勝って帰ってきてから食え」
ネツレイが冷たく言い放つが、その声にはわずかに柔らかさが滲んでいた。
「帰ってきたら……また作ってくださいね」
ニシナが照れたように笑い、指先でスカートの裾をつまむ。
「唐揚げでも、シチューでも……なんでも」
「おう。俺の料理は生き残った奴しか食えねぇんだ。死ぬなよ」
ネツレイが眼鏡を押し上げて言うと、ナヅキが勢いよく頷いた。
「当然だ! 俺はまだまだネツレイの飯、食い尽くしてやるんだからな!」
「……本当に、君らは騒がしいな」
キサラギが火花の天使を呼び出し、弾丸を一つひとつ確かめながら口元をほころばせた。
「けど……ありがとな。背中を預けられる仲間がいるのは、心強い」
その言葉に三人は一瞬沈黙したが、次の瞬間には声を揃えて笑った。
「お前もな!」
やがて、治療薬の最後の一本が回される。
痛みを抑え、身体を温める薬が喉を通るたび、不安よりも決意が強くなっていった。
「……もう迷わねぇ」
ネツレイが吐き出すように言う。
「俺は家族を守るために剣を取った。今は——仲間もその一部だ」
「私もです。病気で学校を辞めた私を、ここまで連れてきてくれた。だから……この命で守りたい」
ニシナの声は震えていたが、目は強く光っていた。
「俺はリヅ先輩を失った。けど……だからこそ、二度と誰も死なせない」
キサラギが低く呟くと、ナヅキが大声で被せた。
「じゃあ決まりだな! 誰も死なせねぇ! 生きて帰る! その上で勝つ! それが俺たちのやり方だ!」
---
雷鳴が轟き、城の尖塔が光に浮かび上がる。
まるで挑発するかのように、禍々しい瘴気がさらに濃くなる。
「……行こう」
キサラギが立ち上がる。
ナヅキは長葱剣を背に担ぎ直し、にかっと笑った。
「よし! 俺たちの戦いを、魔王にぶち込んでやろうぜ!」
四人の影が並び、城門へと向かっていく。
その背に、もう迷いはなかった。
——魔王決戦の幕が、ついに上がろうとしていた。




