紫影の眠り(3)
洞窟全体を覆い尽くすほどの影と、四人の光がぶつかり合い、轟音が響き渡る。
石壁は砕け、天井から岩が崩れ落ちる。その中で、なお紫堕天使は余裕の笑みを浮かべていた。
「ほう……なるほど。四人で連携すれば、私に届くとでも思ったか」
闇が渦巻き、影の槍が再び形成されていく。
絶え間なく襲い来る攻撃に、ネツレイは血を噛むような声で叫ぶ。
「キリがねぇ……!」
「だったら一気に決める!」
ナヅキが長葱剣を高く掲げた。サラダの天使が呼応し、周囲に光る野菜が次々と召喚される。
レタスの翼が広がり、玉ねぎ、トマト、とうもろこしが宙を舞う。
「うおおおおッ! 宴だぁああ!!」
ナヅキの号令に合わせ、キサラギが光弾を撃ち込み、ニシナの石化の波が奔り、ネツレイが影の隙を突いて刃を差し込む。
四人の力がひとつに重なり、洞窟の闇を押し返すように爆発が走った。
「……っぐぅ……!」
初めて紫堕天使の膝が揺らぐ。翼に大きな裂け目が走り、影が霧散する。
ナヅキが勝ち誇ったように叫んだ。
「どうだ! 俺たちの“今”の力、見くびってんじゃねぇぞ!」
しかし、紫堕天使は苦笑を浮かべるだけだった。
「……悪くない。なるほど、夢を破ってなお歩む力……魔王様が興味を示されるわけだ」
「……なんだと……?」
キサラギが目を細める。
紫堕天使は影をまとい直し、その身を闇に沈ませる。
「だが、ここで終わらせるつもりはない。お前たちがどこまで抗えるか——魔王様の御前で確かめてやろう」
その瞬間、影が一斉に収束し、洞窟の空間から紫堕天使の気配が掻き消えた。
残されたのは、血の匂いと荒い呼吸だけ。
「……逃げた、のか」
ネツレイがスティレットを収めながら苦く呟く。
ニシナは肩で息をし、震える声で言った。
「でも……あれで終わりじゃない。魔王が……本当に」
「ああ」
キサラギが頷く。額には汗が伝い落ちていた。
「紫は俺たちを試した。次は……魔王の本陣で待っているっていう訳か」
ナヅキは剣を肩に担ぎ、相変わらずの笑みを浮かべた。
「望むところだろ。俺たちで決めてやる。夢でなく——現実で!」
洞窟の奥で残光のように揺れる影が、不吉な未来を暗示していた。
しかし四人の胸にあるのは、失った幻想ではなく、確かな“今”を守る意志だった。
——戦いは、ついに魔王の領域へと繋がっていく。




