紫影の眠り(2)
崩れ落ちた幻想の残滓が、細かな硝子片のように宙を漂っていた。
それは美しくも儚く、しかし何よりも——冷たかった。
紫堕天使は広げた翼を揺らし、低く嘲笑を洩らす。
「目覚めるとは……愚かだな。永遠に夢に囚われていれば、痛みも苦しみもないというのに」
ナヅキは長葱剣を肩に担ぎ、にかっと笑った。
「はっ、夢なんかより、俺は現実で仲間とバカやってるほうが性に合ってんだよ!」
その声に、キサラギが前へ出る。
「……俺も同じだ。リヅ先輩との時間はもう戻らない。けど今は、背中を預けられる仲間がいる。それが現実なら……十分だ」
ニシナは涙を拭い、髪を揺らした。
「学校に戻れなくても……でも、ここでみなさんと一緒にいられる。必要とされてるなら、私は“生きてる”って思えるから」
ネツレイは一度だけ深く息を吐き、眼鏡を指で押し上げる。
「……俺は、もう二度と家族を失いたくねぇ。そのためにも戦う。夢より現実で、ここにいる仲間と——」
その言葉が、四人の決意をひとつに束ねる。
サラダの天使が満足そうに囁いた。
『いいじゃないか。そうだ、それでこそ“今”を生きる意味がある』
紫堕天使の瞳がぎらりと輝いた。
「ならば見せてやろう。現実の痛みがどれほど惨めで、抗うことすら無力かをな!」
地面に伸びた影がうねりを増し、洞窟全体を覆い尽くしていく。
瞬く間に数十の影の槍がせり上がり、四人へ襲いかかる。
「来るぞ!」
キサラギが即座に指を鳴らす。花火の天使の光弾が四方に弾け、閃光が影を切り裂いた。爆ぜる炎が空間を押し返し、一瞬の光の道が開ける。
「ニシナ!」
「はいっ!」
ニシナの長い髪が蛇のように伸び、迫りくる影の槍を絡め取って石化させた。黒い槍は灰となり、ぱらぱらと崩れ落ちる。
その隙を逃さず、ネツレイが踏み込み、銀の刃を振るった。
「お前も血を流す痛みを思い知れ!」
スティレットが紫堕天使の翼を掠め、紫の血が飛び散った。
だが紫堕天使は苦悶の声をあげながらも、不敵に嗤った。
「……小賢しい。だがその心の炎も、やがて影に呑まれる」
ナヅキが仲間たちの前に躍り出て、長葱剣を振りかざした。
「消えるかどうかは俺たちが決める! “今”を信じて戦う俺たちの火は……絶対に消えねぇ!」
四人の声が重なり、洞窟全体が震えた。
紫堕天使の影と、四人の光が激しくぶつかり合う。
——夢ではなく、現実の戦いとして。




