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サラダな天使の契約者  作者: あしゅ太郎


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山岳への道(1)

 夜が明け、寮の食堂には緊張した空気が漂っていた。

 窓の外はまだ薄暗く、冬の冷たい風がカーテンを揺らしている。


 テーブルに並んだ朝食を前に、ナヅキは欠伸を噛み殺しながらパンを齧っていた。

「……ふぁ〜……眠い。昨日はなんか変な夢見た気がする」


 斜め向かいでコーヒーを口にしていたネツレイが、冷ややかな視線を送る。

「夢じゃねぇだろ。お前が夜中に騒いだせいで俺まで眠れなかった」

「人のせいにすんなよ。なあ」

 ナヅキがニヤニヤ笑うと、ネツレイはわざとらしくため息を吐いた。


 そのやり取りを見ていたニシナが、思わず吹き出した。

「ふふ……でも、こうして顔を合わせてると安心しますね」

 両手を胸の前で合わせ、小さく頷く。


「安心してる場合じゃねぇ」

 キサラギがパンを食べ終え、真剣な顔で立ち上がった。

「探知機の反応はまだ生きてる。紫の堕天使が向かった先は山岳地帯だ。……準備はいいな?」


 その声に、全員の表情が引き締まる。

 ナヅキは勢いよく立ち上がり、長葱剣を背に背負った。

「もちろん! 行こうぜ!」


 ネツレイはコートを羽織りながら、眼鏡を指で直す。

「……ったく、張り切りやがって。今度こそ、無茶すんなよ」


「へへっ、大丈夫だって」

 ナヅキはヘラヘラと笑う。だがその眼差しの奥には、夜の会話で灯された決意が宿っていた。


 寮の玄関を出ると、冷たい朝の風が頬を打った。

 山岳地帯へ向かう車両が待機している。


 ニシナが不安そうに拳を握ると、キサラギがそっとその手を包み込んだ。

「大丈夫だ。……俺たちは必ず戻ってくる」


 仲間たちの視線が交わる。

 それぞれの胸に刻まれた想いが、ひとつの覚悟へと変わっていく。


 こうして、魔王へと続く戦いの道が——静かに開かれていった。


---


 山岳地帯へと向かう車両が、未舗装の道を軋みながら進んでいた。

 車窓の外には、冬の冷気に包まれた峻険な山並みが広がり、薄い霧が尾根に絡みついている。

 その景色は、どこか異界に足を踏み入れるかのような不穏さを漂わせていた。


「……空気が違うな」

 ネツレイが窓越しに低く呟く。眼鏡の奥の瞳は、険しい光を宿していた。


「なんだよ。ビビってんのか?」

 ナヅキが軽口を叩き、背中の長葱剣をぽんと叩く。

「大丈夫だって。俺たちがやれば、魔王だろうがなんだろうが!」


「馬鹿。声がでかい」

 キサラギが冷たく一蹴する。その隣で、ニシナは落ち着かない様子で指先を絡めていた。

「……でも、確かに胸がざわざわします。あの探知機の光が導いた場所……きっとただの山じゃありません」


 車両が停止した。

 目の前に広がるのは、巨大な岩壁の裂け目だった。まるで何者かが力ずくで山を裂いたかのように、黒々と口を開けている。


「ここか……」

 キサラギが端末を確認する。

「探知機の反応はこの奥だ。どうやら歓迎の使者もいるようだな」


 言葉を終えるや否や、洞窟の闇から呻き声が響き渡った。

 無数の赤い眼が現れ、魔物たちがぞろぞろと姿を現す。

 瘴気を纏った獣型、岩肌のように硬化した巨躯——それらが雪を蹴散らしながら突進してくる。


「よっしゃ! ウォーミングアップにはちょうどいい!」

 ナヅキが前へ飛び出す。

 サラダの天使の力を借り、長葱剣から生じた光の刃が唸りを上げて魔物を斬り裂く。


「相変わらず突っ走りやがって……!」

 ネツレイは舌打ちしつつも、スティレットを逆手に構える。銀の閃光が走り、魔物の動脈を正確に切り裂いた。


 後方では、ニシナが髪をうねらせ、石化の波を放つ。数体の魔物が動きを止め、そこへキサラギの花火弾が炸裂した。

 轟音と閃光が闇を裂き、魔物たちが次々と吹き飛んでいく。


︎︎吹き荒れる血と煙の中、ナヅキは振り返って仲間に叫んだ。

「まだまだいけるな! 突っ込むぞ!」


『突っ込むのはいいが、もっと噛み締めろ。栄養は消化してこそ力になるんだ』

サラダの天使の小言に、ナヅキは「戦闘中に説教すんな!」と叫び返した。


「お前なぁ……」

ネツレイがため息を吐くが、その横で毒キノコの天使が囁く。

『血を撒き散らすなよ、胞子まで流れ出す……。お前はもっと冷静に毒を刺せ』

ネツレイは「分かってる」と唇を噛んだ。


ニシナの視界を覆う恐怖に、メデューサの天使が低く囁く。

『怯むな。私を見ろ。お前の眼こそが、仲間を護る石壁になる』

彼女は震えを堪え、さらに髪を振り上げた。


爆音の中、花火の天使は楽しげに笑った。

『いいぞ、キサラギ。今の爆ぜ方……夜空に咲く花のように美しい』

「黙れ……まだ終わってねぇ」

キサラギは冷たく言い捨てながらも、目は燃えていた。


——その時。

闇のさらに奥深くで、紫色の瞳がひっそりと輝いた。

ぞわり、と背筋を這うような視線。まるで戦いそのものが“試されている”かのような悪寒が、四人を包み込んだ。


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