表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラダな天使の契約者  作者: あしゅ太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/77

リヅのチョコ

 訓練所の夜。

 銃声が乾いた響きを立てて、虚しく壁に弾痕だけを刻んだ。


 キサラギは息を吐き、額を押さえる。

 紫堕天使の姿が焼き付いて離れない。あの圧倒的な力、影に沈められた恐怖。

 ——このままじゃ、絶対に勝てない。


 弾倉を入れ替え、狙いをつける。だが撃つたびに、中心から逸れていく。

 悔しさで奥歯を噛みしめた。


「……くそ……」


---


 その時、ふっと脳裏に蘇ったのは、初めて天啓庁に来た頃の記憶だった。


 厳しい訓練施設を出たばかりで、キサラギは何も知らない。

 型通りの敬礼、教科書のような返事、遊びを一切知らない顔。

 最初にチェリーの指示で組まされた相棒が——リヅだった。


『あー、やっぱり来たか。新入りの“優等生くん”』

 明るく笑いながら、彼女はひらひらと手を振った。

『そんなにカチカチの顔してると、銃も固まっちゃうぞ?』


 彼女はそう言うと、制服のポケットから何かを取り出した。

 銀紙に包まれた、一枚のチョコレート。


『ほい、あげる。訓練の合間くらい、甘いもんで気を抜きな。

 力むより、楽しい気分で撃ったほうが、案外当たるんだから』


「……訓練中に、そんなもの……」

 当時のキサラギは、思わず眉をひそめた。

 だがリヅは肩をすくめ、口元でくすっと笑った。


『だから言ってんの。気を抜くのも、大事ってこと』


 チョコの甘さと、彼女の笑み。

 その瞬間だけ、張り詰めた心がふっと軽くなったのを、キサラギは今でも鮮明に覚えている。


---


 記憶が重なり、今の自分の指先が少し震えるのを感じた。

 リヅが教えてくれたのは——技術だけじゃない。

 心を縛る鎖を、ほんの少し緩めること。


「……力むな、か」


 深く息を吸い込み、肩の力を抜く。

 銃口ではなく、ただ的の中心だけを見る。

 “当てよう”じゃない。“当たる”と信じて。


 引き金が絞られた。


 銃声と共に、弾丸は一直線に走り——

 カァン、と乾いた音を響かせ、的の中心を正確に撃ち抜いた。


 キサラギの口元に、わずかな笑みが浮かぶ。

「リヅ先輩……あんたの言葉、今でも効いてるよ」


 夜の訓練所に、再び銃声が重なった。

 弾丸は迷わず的の真ん中を撃ち抜き続ける。


 紫堕天使を撃ち抜くその時まで——彼はもう、迷わない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ